国際データガバナンスアドバイザリー委員会(第1回)
国内外の一体的なデータ経済圏(エコシステム)の実現に向け、OECDの下で立ち上がったIAP(Institutional Arrangement for Partnership)と、その他の国際枠組みにおけるDFFT(Data Free Flow with Trust)の具体化に向けた取組、ならびに日本におけるデータ戦略とデータガバナンスに関する取組の連携を目指し、国際的なデータ流通・利活用に係る官民協力の強化を図ることを目的とした委員会を開催します。
概要
- 日時:2024年3月25日(月)8時から9時まで
- 場所:デジタル庁 庁議室
- 出席者
- 会長:河野太郎デジタル大臣
- 委員:稲谷委員、遠藤委員、大橋委員、小島委員、辻委員、南部委員、半沢委員、深澤委員、山本委員(※50音順)
- 事務局
- デジタル庁 国民向けサービスグループ 国際戦略
- 経済産業省 商務情報政策局 国際室
- 議事次第:
- 開会
- 議事
- 冒頭発言
- 民間委員による発言
- 専門家委員による発言
- 自由討議
- 閉会の挨拶
- 閉会
資料
- 議事次第(PDF/149KB)/座席表
- 【資料1】国際データガバナンスアドバイザリー委員会 委員名簿(PDF/181KB)
- 第1回国際データガバナンスアドバイザリー委員会 エグゼクティブサマリ(PDF/448KB)
- 議事要旨(PDF/586KB)
※座席表に関しては非公開とさせていただきます。
議事要旨
1. 冒頭趣旨説明(河野大臣)
- 2019年のダボス会議において、安倍元首相がDFFT(Data Free Flow with Trust)を提唱して以来、我が国は欧州と米国の規制に対する対照的なスタンスの間に立ち、また、中国等のデータガバナンスの動向も踏まえながら、DFFTの実現に向けた国際的な議論を主導してきた。その成果もあり、昨年5月のG7のデジタル大臣会合や広島サミットでの合意を経て、昨年12月のOECDの会合で、OECDの下にIAP(Institutional Arrangement for Partnership)という新しいDFFTの枠組を設立することが承認された。本年5月に開催されるOECD閣僚会議では、我が国が議長国としてDFFTのロードマップに関する議論を主導していくことが重要である。
- 日本政府としては、民間企業を始めとする日本のステークホルダーの声をしっかり受け止め、国際データガバナンスの議論に反映させることで、国内企業のビジネスモデルを踏まえた国際的な競争環境を構築し、データ経済圏を立ち上げていきたいと考えている。
- 欧州では、GAIA-Xのようなデータ流通基盤の整備と併行して、それらの基盤の活用を前提とする規制を策定することで、域内市場へのアクセスと引き換えに、諸外国に欧州のルールを広げていく動きも見られるが、このような動きが続けば、今後のグローバル・サプライチェーンへの影響も懸念される。他方、国内に巨大プラットフォーマーを抱える米国は、従来は国家レベルでのデータガバナンスの姿勢を示してこなかったが、近年は、連邦政府がデータガバナンスを主導する方針に転換しつつある。
- 国際競争力の向上に向けて、我が国においても、国内企業の意見を反映したデータ戦略やデータガバナンスの枠組みを構築することが重要である。関係府省との連携に加えて、企業からの意見も集約しながら、産学官の共通課題として、データ経済圏やデータ・エコシステムの形成に取り組んでいけるとよい。
- 今後の取組の一つとして、今年の秋にも、セキュリティやデータ利活用を含む、企業のデータガバナンスのガイドラインを打ち出す必要があると考えている。
2. 民間委員による発言
グローバルな企業活動に伴う越境データ移転に関する課題
- データ流通に関する諸外国の規制の透明性向上に取り組んでいただきたい。現在は、データの越境移転を行う各企業が、独自に現地の法令を十分調査した上で、リスクを抑えるために、法令で定められている以上の対応を行っている場合もある。各国間で協調的な規制が行われることが理想的であるが、各国の規制の適用状況の全体像が明確になるだけでも、企業にとっては調査コストの低減に加え、過剰なリスク対策が不要になるというメリットがある。
- 現在、海外での製品・サービス提供に当たり、各国の法規制を調査しながら事業を展開しているが、今後は各国の法規制が一層複雑化することが懸念される。特に、地形の3Dデータや個人情報については、流通や利用に関する規制が厳しい国が多い。また、技術の進展により、近年取得可能となったようなデータについては、法令面での対応が追い付いていない場合もある。
- 国外へのデータの持ち出しを制限する国が増えている。企業がそうした国一つ一つにサーバを設置することは現実的でないため、そうした状況への対応が課題となっている。また、現地にサーバを設置する場合のサイバーセキュリティ等も各国共通の課題となっている。
- 事業活動や採用活動のグローバル化に伴って、個人情報保護やガバメントアクセス等を始めとするデータ関連規制の各国の違いが課題となっている。日本政府には、アジアおけるデータ関連規制のスタンダードの確立を主導することを期待したい。また、そうした取組には時間を要すると考えられるため、まずは各国の法制度について情報の集約と発信を進めていただけると、企業としては非常に有り難い。
- 海外への事業展開時に、各国のプラットフォームとの連携を検討することがあるが、その際、プラットフォームとの間で授受を行うデータ項目や使用するID等、データガバナンスに関する議論が非常に重要になっている。
国際データガバナンスの推進に関する意見
- 現在、EUがサプライチェーンを含めた製品情報等のデジタル化に向けた議論を主導している。こうしたグローバルな枠組みの策定に当たっては、可能な限り国内の意向が反映されることが望ましいため、EUの基準がそのまま国際規格となってしまうことのないよう、米国とともに、我が国も積極的に議論に関与していただきたい。
- 現在、EUでは、貿易に関わる企業・従業員・貨物を一意に特定できるデジタルIDの枠組みの導入が計画されており、日本企業としての対応が課題となっている。我が国でも、デジタル庁を中心として、IAP等の場を活用しながら、日本企業が不利益を被らないよう、アジア諸国と連携して国際交渉に臨んでいただきたい。
- 国際データガバナンスに関する議論については、G7のみで行うのではなく、G20を始めとする多くの国を巻き込みながら議論を進めていただけるとよい。
- データの流通と利活用の促進は、社会全体の生産性を向上させ、先進国のみならず、新興国の社会課題の解決にも資するような高い付加価値の実現につながる。今後も重要な課題として自社でも取組を進め、IAPにおける議論等も支援できるとよい。
- 国境を越えたデータ流通の円滑化にあたっては、ルールの策定、トラストの担保、標準化の3つの取組をバランスよく進め、質の高いデータの流通を担保することが必要である。中でも、国際標準化においては、必ず多国間での取組が求められる。データ自体の標準化のほか、ネットワークの安全性や信頼性についても標準化を進めることで、よりセキュアで信頼性の高いデータ流通が実現されるのではないか。
- 自由なデータ流通と利活用を実現するためには、データ保護とプライバシーに関する共通フレームワークの策定のほか、リテラシーの向上、標準化、データポータビリティ等に関する各国の動向を注視することが重要である。また、データの真正性を担保する中立的な仕組みや、本人確認やプライバシー保護のための技術に関する国際的なフレームワークの策定も重要であると考えられる。
- データの国際標準化の議論においては、データの客観性や品質、データ取得環境等を定義していくことが必要になる。これは結果的に、データを取得するセンサーに求められる要件を定義することにつながる可能性もあり、波及範囲の広さに留意が必要である。
- データ流通に関する各国の規制を遵守しながら越境移転を行う手法に関して、具体的な技術の実装方法や標準化についても、検討が行われるとよい。
国内のデータガバナンスの推進に関する意見
- データ連携の促進にあたっては、データを保有する主体に価値を還元できるような枠組みの構築が必要である。また、デジタル化が進んでいない事業者等を支援するような政策についても、検討が望まれる。
- データへのアクセスやポータビリティ権は、デジタル時代の消費者保護の基本的な概念として広がりつつあるが、我が国では特定の産業のデータを除いて、金融や電気、ガス、交通など公益性が高いサービスを提供する企業等が保有するデータへのアクセスは制度化されておらず、制度化を進める国との差が生じている。
- データを提供する企業のインセンティブについての検討や公益性の高い情報の活用に関するコンセンサスの形成等、実際の運用の中で解決が必要な課題もあるため、経済産業省が取り組むOuranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)等の枠組みを活用しながら、多くの関係者と共にガバナンスの推進や標準化等の取組を進めることが必要ではないか。
- 今後、AI等の先進技術の普及・発展に伴って、データが持つ価値はさらに向上していくことが予想される。そのため、国内事業に関するデータの海外への持ち出しや取り扱うサーバの要件等も含めて、国内のデータガバナンスのルール整備も重要になるのではないか。
3. 専門家委員による発言
国際データガバナンスの推進に関する意見
- 他国のデータ関連法制に関する透明性を高める取組が重要であることは明確であるため、今後は具体的な方法論についての議論を行う必要があるのではないか。
- EUでは既にデータ法が成立し、産業データや非個人データは公共財として位置づけられて、企業に対して提供義務が課されるような状況になっている。今後、我が国が国際的な議論で後れを取ることがないよう、国内においても産業データや非個人データの位置づけやデータガバナンスのビジョンに関する検討を積極的に進めることが急務である。
- 我が国のデータ関連法制を横断的に見直すとともに、PETs(Privacy-Enhancing Technologies)のような先端技術の活用も視野に入れて、機能的な観点から法制度を見直し、法的な側面と技術的な側面の両面で、我が国としてのデータガバナンスの在り方を検討することが必要である。その上で、IAP等の場において我が国のデータガバナンスの在り方を前面に押し出していくことで、多くの国を味方につけ、他国が進めようとする規制を押し返していくことが可能となるのではないか。
国内のデータガバナンスの推進に関する意見
- データガバナンスは、先端技術の社会実装において決定的に重要な基盤となる。特にAIやIoTを用いてデータを活用する上では、データの連携基盤が欠かせない。先端技術のリスクガバナンスを重視しつつ、技術のもたらす恩恵を最大化する観点からも、データガバナンスに関する検討は重要である。
- データの活用や流通が進み、新たなビジネスが生まれることで、例えばデジタル化された保険の仕組みによって現場の労働環境の安全性向上等、新たな価値が実現されるという観点も重要である。データがもたらす新たな価値を念頭において検討することで、具体的なメリットが示せるのではないか。
- 国内のステークホルダーのニーズを把握する上では、企業や業界団体から受動的にニーズを聞き取るだけではなく、政府による情報発信や情報提供を行いつつ、潜在的なニーズを把握するといった、戦略性を持った企業ヒアリングが重要である。また、企業がDFFTの実現に、主体的かつ積極的に関わるためには、具体的なインセンティブの構築も必要である。
- 産学官の連携に加えて、ユーザーの視点も重要である。特にトラストに関する議論においては、ユーザーの主観的な感情を無視することはできないため、ユーザーの意見を収集する手段の検討も必要である。
4. 自由討議
相互運用性を高める観点で優先度の高い国・地域
- ASEAN諸国の中には、GDPR(General Data Protection Regulation:EU一般データ保護規則)への対応に課題を抱えている国もあり、CBPR(Cross Border Privacy Rules:APEC越境プライバシールールシステム)のような新たな枠組みを進めようとする動きがある。このように欧州とは異なる取組を模索している国・地域とは連携できる可能性があるが、データ流通のルールについては、多国間での議論が難しい面もあり、まずは二国間での議論から進めることが望ましいと考えている。このように考えた場合に、優先度が高いと思われる国・地域があれば、ぜひご意見をいただきたい。(河野大臣)
- 欧州は、GDPRに準拠しなければ欧州市場に参入できないような仕組みを形成しつつあり、このような状況に日本だけで対抗するのは難しい。しかし、米国はデータの領域において欧州と対抗する姿勢は見せていないため、日本としては、アジアからデータ流通の仕組みを展開するのが望ましいのではないか。特にインドは人口も大きく、協力関係を構築していくことが望ましい。
- インドは、市場規模が大きいことに加え、グローバルサウスに対して主導権を握ろうとする動きを見せている。データ流通の取組をインドと協働して進めることで、大きな価値を創出し得るのではないか。
- 既にルールを形成している欧米は難しいが、東南アジア諸国は候補になり得る。特に近年、諸外国から注目を集めているインドネシアは、重要な連携先であると考えられる。
- 貿易の分野では、ASEAN諸国でプラットフォームの構築が進んでおり、特にタイでは実用化に向けた検討が進んでいる。一方で、貿易量の多い米国や中国に対抗する形でデジタル化やデータ連携を進めていく必要があるため、日本が参画する場合は国レベルでの交渉が求められる。
- 欧州のルールメイキングに対抗する上でも、影響力が大きいインドやインドネシア等を含めて、アジアとしての共通の意見を形成することが重要ではないか。
- ルールメイキングを力強く進めている欧州の動向を注視しつつ、市場の大きなアジアを見据えて標準化等を進め、その上で今後の成長可能性を有するグローバルサウスに向けて展開を進めていくような順序で取組を進められるとよい。
- アフリカ諸国も、現在はまだ大きな市場ではないかもしれないが、EUや中国の規制に従うことに課題を感じている国もある。アフリカにも、データ流通の方向性を示し、日本のイニシアチブに関心を抱いてもらえるとよい。