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AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方検討サブワーキンググループ(第3回)

概要

  • 日時:2024年2月27日(火)10時00分から12時00分まで
  • 場所:オンライン
  • 議事次第:
    1. 開会
    2. 内容
      1. 事務局説明(第2回AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方検討サブワーキンググループにおける主な御意見及びご意見を踏まえた想定論点について)
      2. 自動運転プログラムの安全性と「欠陥」の捉え方
      3. 自動運転車が関与する交通事故の責任議論に対する自工会の考察
      4. 業務上過失致死傷罪の現状等について
      5. 刑事免責制度の導入は国民(特に被害者)の理解が得られない
    3. 意見交換
    4. 閉会

資料

議事録

児玉参事官: はじめに事務連絡です。本日の会議は、完全オンラインでの開催となります。 構成員の皆様は、会議中はカメラオンで、発言時にはマイクのミュートを解除いただきご発言をお願いします。なお、他の方が発言されている際は、ミュートにしていただければと思 います。また、傍聴者の方は、カメラ、マイクをオフにしていただきますようお願いします。

次に、資料を確認します。事前にお送りしました議事次第に記載のとおりとなりますが、資料といたしましては、議事次第、構成員名簿、事務局説明資料、藤田構成員説明資料、波多野構成員説明資料、法務省説明資料、髙橋構成員説明資料、構成員提出資料、出席者一覧となります。お手元にない等の状況がございましたら、Teamsのチャット機能、もしくは事務局までメールにてお問い合わせいただければと思います。本日の出席者については、時間の制約もありますので、失礼ながらお手元の出席者一覧の配布をもちましてご紹介に代えさせていただきます。なお、原田構成員が途中で退出される予定と伺っています。

また、本日は関東交通犯罪遺族の会(あいの会)の顧問弁護士の上谷様、代表理事の小沢様、副代表理事の松永様と、前回ご発表いただいたDADCから大野様、菅沼様が陪席者としてご参加されています。只今申し上げた方々は、次回以降も引き続き陪席いただく予定です。本会議の資料及び議事録は後日公開となりますこと、ご承知おきください。
それでは、ここからの進行は小塚主査にお願いしたいと思います。小塚主査、お願いします。

小塚主査: 皆様、本日はお忙しい中お集まりいただきましてありがとうございます。新しいテクノロジーに関する制度を考える上では、国際的にもマルチステークホルダープロセスと言われているように、様々な立場の方々にご参加いただくことが一般的になっております。ご協力いただいた皆様には感謝申し上げます。

それでは、議事次第に従いまして進行をいたします。まず、議事2ー(1)に移ります。事務局説明として、前回のサブワーキンググループにおける主なご意見と、それらご意見を踏まえた想定論点をご説明いただきます。それでは、須賀参事官、よろしくお願いいたします。

須賀参事官:
(以下「資料3:第3回事務局説明資料」に基づきご説明」)
資料3:第3回事務局説明資料に基づき、第2回SWGにおける主なご意見、第2回SWGにおけるご意見を踏まえた想定論点等についてご説明。

ここから先は資料がございませんので口頭で申し上げますが、2022年中のデータとして、交通死亡事故の件数が2,550件あり、うち1,971件の、77%にあたる事故の原因が、自動車の運転者のミスに起因する、人的要因であるというデータがございます。この2,550件の中には、バイク対歩行者のような事故も含まれますので、必ずしも自動車だけが分母になっておらず、実際には77%より大きい数字となる可能性もございます。いずれにせよ、このデータから、交通死亡事故の多くが自動車の運転者のミスに起因していることは明らかでございます。自動運転システム、特に無人の自動運転は、運転者が行う認知・予測・判断・操作を代替するものですので、将来的に安全な自動運転システムが広く普及しますと、運転者のミスに起因する交通事故の大半の削減が期待されます。そのためにも、安全性を高める方向での議論をお願いしたいと思っております。事務局からは以上でございます。

小塚主査: ありがとうございました。いろいろな論点を整理していただき、最後に、社会にとって有益な技術をどのように普及させていくかが問題であるというご指摘をいただきました。それに関連しまして、議事2ー(2)自動運転プログラムの安全性と欠陥の捉え方について伺いたいと思います。東京大学の藤田先生、お願いいたします。

藤田構成員:
(以下「資料4:自動運転プログラムの安全性と「欠陥」の捉え方」に基づきご説明)

よろしくお願いいたします。それでは、私の方から自動運転プログラムの安全性と「欠陥」の捉え方と題した報告をいたします。第1回の会合で、人間の運転者の関与が無く、システムにより運行が管理される場合に求められる安全性の基本的な考え方について整理しておく必要があるのではないかと申し上げました。本日はそれを受けた報告となりますが、本報告の主眼は私の意見を強く主張するというより、今後の皆様の議論の参考にしていただくという趣旨でございます。先ほど事務局の方から、欠陥概念の明確化というお話がありましたが、この報告によって欠陥概念が明確化できるわけではありません。具体的にどこまで安全性を確保すればよいかという点について製造者はお聞きになりたいのかと思いますが、そのようなことは明らかになりません。しかし、大前提として、欠陥をどのように考えるのかという基本的な意識が共有されていないのではという懸念から、本日はお話をさせていただきます。同時に、プログラムの備えるべき内容について、課題となることを最後に若干指摘させていただければと思います。人間の運転者がプログラムに依存して自動車を運行することを許容された状態、即ちレベル4や5はもちろん、レベル3でも部分的にはそうなっているはずですが、その下では、自動運転車が起こした事故の事後的責任を考える際に、現行法の解釈や立法論として、当該プログラムの安全性の評価が意味を持ってくる可能性があります。スライドの次のページをお願いします。

そもそもの出発点として、いかに優れた自動運転プログラムであっても全ての事故を根絶できるわけではありません。逆に言えば、防止できない事故が存在すること自体は、直ちに自動運転プログラムが安全性を欠くということを意味しません。この点については異論がある方はいないと思います。また自動運転プログラムは少なくとも平均的な人間の運転者以上に安全な運転を提供できることが要求され、これができないようであれば安全性を欠くという点についても、おそらく異論はないかと思います。そしてプログラムが防止できない事故は全て人間の運転者でも防止できないということであれば、当該プログラムが人間より安全な運転ができるということになります。問題なのは、人間の運転者が防止できる事故のほとんどは防止でき、人間の運転者では防止できない事故の多くも防止できるが、人間の運転者が防止できる事故を防止できないことが、非常に低い確率ではあるが起こりうるという状況です。このようなプログラムをどう評価するかが問題となります。以下の議論は、こうした状況が有りうるということを前提にお話しいたします。もし、プログラムを設計する側が、人間の運転者が防げる事故は全てプログラムで防止できると断言でき、そのような事故が起きたら欠陥があるとされても文句を言わないという前提で話しを進められるのであれば、これからの議論は気にしなくて問題ないかと思います。しかし、このような状況が有りうるということを、さしあたりの前提として、非常に単純化した設定を前提に、大きく分けて二つの異なった方向での見方を説明させていただきます。スライドの次のページをお願いします。

時間の関係で逐一読み上げることはしませんが、議論を不要に錯綜させないために、3ページ目のスライドで書かれた内容を前提とします。そもそも、欠陥の有無や安全性に依存して責任の有無が決まるような法制度が存在すること、利用者の過失を問題とすべき状況は無いということ、単純なプログラムのバグ等は無いとすること、安全性以外にプログラムの制約を考えないということを前提にお話しさせていただければと思います。スライドの次のページをお願いします。

あまり抽象的な話をすると空中戦になってしまうため、自賠法上の運行供用者責任を例にお話しします。レベル4の自動運転車がODDの範囲内で事故を起こしたと仮定します。運行供用者は自賠法3条の免責三要件を立証しないと免責されないのが現行法ですが、レベル4の自動運転では、ODDの中では何もしなくてよいため、基本的には運転者の運転上の過失は問題にはなりません。そうなると、免責されるか否かは、現行法上は構造上の欠陥等の有無が責任の決め手になります。従来では、事故の直前の運行環境という具体的なコンテクストの下での運転者の行為について過失の有無が問われていましたが、自動運転ではそれが問題とならず、構造上の欠陥等の有無が責任の決め手になります。スライドの次のページをお願いします。

その上で、構造上の欠陥の有無の判断に関する一つの考え方として、事後的・個別的評価アプローチが考えられます。この考え方では、人間の運転者に関する過失の判断とパラレルに、当該自動運転プログラムが行った車両制御が、仮に人間の運転者がそのような操作を行ったとすれば過失ありと判断されるような制御であったか否かという観点から評価します。当該事故との関係で、人間の運転者だったなら過失ありと判断されるような制御をプログラムが行っていれば、安全性を欠いているため構造上の欠陥等があり、したがって運行供用者責任があると考えるアプローチです。もう一つは、当該プログラムによってどれくらい事故が防止できるかということを事前の観点から判断する、事前的・一般的評価アプローチの考え方があります。事前の確率的な判断として、人間の運転者よりも有意に安全な運行を提供できるものであれば(要求されるのがどのくらい安全である必要があるかという問題は残りますが)、特定の事故の局面における車両の運転制御が、仮に人間の運転者であれば過失であると判断されるようなものであったとしても、そのことによって直ちに欠陥があるとは考えない、というものです。スライドの次のページをお願いします。

事後的・個別的評価アプローチでは、運転者の過失が問題とならなくなった代わりに、運転者の過失に関する判断の仕方がそのまま構造上の欠陥の部分に持ち込まれる形となります。その意味では、判断の場所は変わりますが、同じ内容を判断するため、いわば現状維持的なものとなり、一見すると安全な解釈に思われます。しかし、この考え方では、運転者はプログラムに依存しても良いと言いながら、一方では、プログラムが実現した運転制御について、運行供用者に対して一定の内容を結果的に保証することを要求するようなことになるという問題があります。運行供用者としてローカルバスの事業者のようなものを想定するのであればまだ理解はできますが、個人の運転者が運行供用者となる場合を考えると、一層疑問が出てきます。スライドの次のページをお願いします。

これに対して、事後的・個別的評価アプローチをやめて、事前的・一般的評価アプローチを取るとすれば、運行供用者側の問題は無くなりますが、被害者から見ますと、人間の運転者であれば過失に対して責任を追及できるような運行によって被害を受けた場合、責任を追及できる相手が存在せず、誰も責任を負わないという状況が生じる可能性が出てきます。人間の運転者であれば過失ありとされるような運行なのに、少なくとも自動車に乗っている人に対しては責任追及できなくなる場合が出てくるために、被害者感情として納得がいかないという問題が出てくるおそれがあります。この問題、ひいては自動運転が社会受容性を欠く可能性があるということが、この考え方をとる際の最大の問題点と思われます。スライドの次のページをお願いします。

どちらの発想が正しいかを理論的に徹底的に論じることは本日の報告の目的ではございませんが、簡単な感想だけ述べさせて頂きます。第一に、事後的・個別的評価アプローチによる構造上の欠陥等の判断は、少なくとも、自賠法上の運行供用者責任の在り方としては問題があると言わざるを得ないと思っております。自動運転の利用にとっての障害となるおそれがあり、とりわけ事業者以外の利用者を想定した場合に顕著に表れると思います。第二に、事前的・一般的評価アプローチを取る場合、何らかの立法的措置が必要となってくる可能性もありますが、資料3点目に記載しておりますが、被害者保護との関係で、あわせて何らかの補完を同時に手当することも選択肢としては十分考えられます。例えば、構造上の欠陥が無く、運行供用者責任が発生しないという場合でも、現在、無保険者ひき逃げの場合になされる自賠法72条の自動車損害補償事業のような形で、自賠責保険と同じレベルでの保証は最低限与えるという措置等を併せて講じることも考えられなくはありません。具体的な要件等は別途考える必要がありますが、そのような措置を加えることで社会的受容性が高められるのであれば、選択肢の一つになりうると思います。スライドの次のページをお願いします。

以上、自賠法についてお話ししましたが、次に製造物責任法上の責任原因としても、欠陥の存在が挙げられます。自賠法の構造上の欠陥と製造物責任法上の欠陥は共通する問題があります。なお注意いただきたいのは、製造物責任上の欠陥の有無は引渡し時点で判断するということが確立している考え方ですが、だからといって、製造物責任上の欠陥の判断については当然に事前的・一般的評価アプローチになるというわけではありません。引き渡し時点でのプログラムが有していた安全性を事後的・個別的評価アプローチで判断すること自体は、少なくとも論理的・観念的には十分可能だからです。もちろん、論理的・観念的に可能であり矛盾しないということと、それが妥当であるかということとは全く別問題です。ここでは製造物責任法上でも、自賠法上の構造上の欠陥のとらえかたと同じ問題が存在するということは述べて先に進ませていただきます。スライドの次のページをお願いします。

刑事責任については私の専門ではないためあまり深く立ち入りませんが、例えば自動車運転処罰法では自動車の欠陥それ自体が構成要件となっているわけではありませんので、自賠法や製造物責任法のように、欠陥の捉え方で直ちに責任の有無が左右されるわけではありません。しかし、安全性を欠く自動運転プログラムに運転を委ねることが自動車運転処罰法5条にいう「自動車の運転上必要な注意を怠」ったことになるといった形で解釈するのであれば、欠陥があるか否か、ひいては欠陥の捉え方の影響があるのかもしれません。また、製造者の責任との関係では、もう少し直接的な形で、プログラムが安全性を欠いていないかどうかということが問題になるかもしれません。もっとも、刑事責任の場合には欠陥の認識あるいは認識可能性が要求されますので、その意味では、民事責任の場合ほど安全性あるいは欠陥の捉え方が直ちに責任の有無を決めてしまうほどダイレクトな考慮要素では無くなってくるという点では違いが残るでしょう。スライドの次のページをお願いします。

ここまで、欠陥に依存して責任の有無が決まってくる責任法制が維持される場合の安全性の捉え方について対立する二つの考え方を説明しましたが、今回は捨象した以下のような問題についても、どこかの段階で検討する事が必要になると思います。詳細は省略しますが、学習し、進化するプログラムについての欠陥の考え方、とりわけ製造物責任法上の、引き渡し時を判断の基準とする考え方との整理の仕方、アップデートなどの義務を利用者が果たさなかった場合には責任が生じる可能性がありますが、それを欠陥の中で考えるのか、あるいはそれとは別の過失の要素と考えるのか、さらに欠陥と損害の因果関係をどう考えるかということも、とりわけ事前的・一般的評価アプローチを取る場合にはなかなか難しい問題があります。それに加えて、プログラムの内容に関する倫理的な制約、典型的にはトロッコ問題などと言われる話が、倫理の話なのか、法的な話なのか、法的な話であればそれはいかなる意味を持つのか、たとえば事故に関する責任で何か意味を持ってくるのか、といった話も本来は検討する必要があります。これらは全て長期的な課題と思われますが、頭出しとして、検討すべきタスクをご認識いただくために言及させていただきました。以上です。

小塚主査: ありがとうございました。非常に大きな問題をご提起いただき、これだけでも深く議論ができるかと思いますが、進行上先に進めさせていただきます。

議事2ー(3)の、自動運転車が関与する交通事故の責任議論に対する自工会の考察として、波多野構成員からご発表をいただきます。それではお願いいたします。

波多野構成員:
(以下「資料5:自動運転車が関与する交通事故の責任議論に対する自工会の考察」に基づきご説明)

ご紹介いただきありがとうございます。自工会にて自動運転タスクフォース主査を務めております、ホンダの波多野でございます。それでは、タイトルのとおり、自工会の考察をプレゼンいたします。次のページお願いします。

こちらは第1回サブワーキンググループにて、自工会として考えている社会的ルールのための検討材料としてご提示させていただいた資料を再掲しております。特に左側のイラストが示しておりますのは、自動運転がサービスを提供しようとするエリアで、どのような機能・役割・責任を用い、さらに、インフラや協調システム、及び交通参加者含めた三位一体で対応していくのかという考え方の概念を示しているものでございます。この図は少しわかりづらいと思いましたので、次のページに、これがどのように導き出されるかという部分を補足しております。

自動運転は通常、初めから仕様が決まるわけではなく、機能実証から実路機能実証、無人の走行実証とサービス実証という、いくつかの段階を経て事業が開始されます。当初はサービスを提供したい範囲というのが左の図のようにあり、ここには予見困難なリスクや、回避困難なリスクも含んだ状態で検討が始まります。概ね自動運転システムは完璧なものではございませんので、交通ルールを遵守し、安全を担保できる範囲が概ね期待のサービスエリアよりも狭いことが通常でございます。安全を担保するためにはいくつかのアプローチがありますが、代表事例として、提供するエリアを自動運転システムが対応可能なように絞り込んでいくというのが一般的な考え方となります。それでもなお、提供エリア内でシステムの性能が十分でない場合は、さらに右の図のように、場合によってはインフラを整備する、例えば横断歩道、信号、右折レーン、ガードレールの設置や協調システムへの対応といった施策を打ちます。加えて、周辺住民との関係性にもよりますが、交通環境を共有する周辺交通参加者にルール遵守を徹底いただくような、人との関係性も整理した上で、初めて安心して提供するサービスエリア内で自動運転が安全に運行可能になることが想定されております。そのため、必ずしも、自動運転を運行するからといって想定外の事象がそこら中に存在しているわけではなく、事前に関係各所と協調しながら安全性を担保していくという準備が非常に重要になります。次のページお願いします。

このような準備のもと、どのように安全を確保していくかという観点を整理させていただいております。資料左の図は再掲となりますが、国交省様が提示されている、自動運転の安全技術ガイドライン、合理的に予見される防止可能な人身事故が生じない、というガイドラインをもとに、四つのエリアに分類した図となります。先ほど申し上げた、三位一体で安全対策を施したエリアは、左の図で申し上げると、事故は起こさないように設計・製造されなければならない、と記載された、青いエリアが該当します。事前的に安全性を担保しようとする範囲を超えて、それでもなお自動運転を運行すると、欠陥や過失が無かったとしても、回避可能な、偶発的な、不可避な事故は残念ながら0になるわけではないという点は、ご理解いただける範囲かと思います。提供しようとするエリアの中で、安全を最大限に確保していくことを目指すためにも、製造側としては、この青い領域をどのように見極め、審査・評価いただくかというところの明確化が非常に重要なのではと考えております。これが、資料下部の黄色い領域に書かれた1番のとおり、合理的に予見される事故ケースの有限化、即ち、検証可能なように整理をして、その中で回避ができる性能の判断基準を、テスト方式も含めて共有し、この結果をもって社会との合意を形成するベースラインとしていくことが重要だと考えております。ただし、先ほど申し上げましたが、予見可能な範囲の中には欠陥や過失が無くても回避困難で事故となってしまうケースが必ずしも0になるわけではないということも事実でございます。こういった場合を、どのような形で社会に判断していただき、受け入れていただくかという基準の策定も必要です。資料の3番目は、事前に全く予見できないケースについてです。この場合、対応の検討が事後的にしかできませんので、その点も含め、事後の取扱いをあらかじめ議論していくことも重要だと考えましたので、第1回サブワーキングにて期待値としてご紹介いたしました。次のページお願いします。

具体的にどのような場合に事故が想定されるのか、その要因の例を示しております。資料上の青い部分である、事故を起こさないように設計・製造される領域で仮に事故が起きてしまったとすると、要因2-1として、自動運転車が走行状態を正しく認識できず事故を回避できないという、認知・判断の不良が考えられます。また、センサーやその他システムが欠陥・故障し、事前に検知できないという状況も考えられます。地図等の自車位置の認識に不都合がある場合や、インフラ等からの情報が不適切であるという場合も想定されます。加えて、要因2-2を考えますと、自動運転車が適切に車両を制御できていない、即ち判断・行動の不良が想定されます。走る・曲がる・止まるといった機能に欠陥や故障がある場合や、走行軌道が適切に算出されない場合、コンピューターの不具合等も想定されます。これらの事象は本来事故に至らないように設計・製造されるべきであり、欠陥や故障があったとしても、事故に至る前に自動車メーカーもしくは利用・運用している主体者により発見・対応されることが前提として整理されていることをご理解いただきたいと思います。続いて要因1になりますが、可能な限り安全を担保する青いエリアがあるにもかかわらず、残念ながら自動運転が回避できないケースです。故障・欠陥が無かったとしても、例えば自動運転車が回避できないほどの目前で障害物が突然走路を塞いでしまう状況などが考えられます。つまり、物理的な限界を超えた状況になるかと思いますが、例えば対向車が突然車両の面前に向かって走ってくる場合や、歩行者やその他周辺交通参加者が突然、回避できない距離で飛び出してくるような場合は、物理的に対応が難しいと考えます。さらに、要因1-2として、極力対応するようには整えられているものの、サイバーアタックなどの悪意のある攻撃は事前での対応がなかなか難しい領域となります。これらのようなことで適切な走行が阻害されるような状況になりますと、制限速度の改ざんや信号の誤点灯、または誤認識などが発生した場合、事故につながってしまう可能性があります。しかし、この黄色い領域は、現在の科学技術では全てのケースを合理的に保証することが難しいと認識しております。この点につきましては、単に技術的な限界を見極めていくだけでなく、全ての交通参加者がどのようにルールを守っていくかという考え方の整理や、刑法的な責任追及の可否なども含む総合的な議論が必要であると示しております。ご参考までに、予見ができないケースは事前の対応が難しいですが、天変地異によって道路が破壊される場合や、突然どこかから何かが落ちてくる場合等、全く想定ができない事象については事後的な対応となってしまうため、あらかじめどのように取り扱うのか協議することが必要だと考えております。次のページお願いします。

このように、製造・産業側は安全を担保するために最大限の努力をしていくわけですが、実際の事故は、様々な関係者が関与していることが想定されます。製造者や事業者はサービスを提供しようとしますが、そこでは一定の審査をいただき、許可のもとに利用・運用が始まりますし、当然、事業者様・所有者様が計画的に維持し、交通環境も整った状態で車両が運用されます。自動車を人が運転した場合、基本的には運行供用者の範囲の中で責任を果たしていただくことが通例でしたが、資料上の①にありますように、運転者が運転して発生した事故と、自動運転車が関与して発生した事故の比較において、責任の所在が異なる領域があるのであれば、それを明確にする必要があると思います。これは先ほど藤田先生が言及されたことと通じます。車両が適切に設計・製造・使用されている限り、基本的には事故は回避されることが想定されます。責任追及の対象を従来と大きく変えるならば、法的根拠や議論の前提を確認した上で進めていくべきと捉えております。前回までに出てきた実際の事例についても本日議論がありましたので少し触れますが、欠陥に関する過去事例は当然承知しておりますが、基本的に自動車メーカーは車両が通常有すべき安全性を満たすように設計・製造し、適切に審査をいただき、製品を販売、もしくは利用いただいております。こういった努力をしてもなお避けられない事故は想定外のものになりますが、その責任をどこまで負うべきなのかという点は改めて確認していく必要があると思います。さらに、③の領域になりますが、運輸事業などで重篤な事故の事例は承知しております。通常は車両の安全性担保のみならず、運輸事業者様が関係者への教育、加えて車両の点検、運行計画の監督省庁への提出等の作業により事業の安全性が担保され、許可をいただいていると承知しています。そのため、事業者様についても、併せて担うべき責任の範囲がどこまでになるのかという確認も必要だと考えております。次のページお願いします。

産業界は、安全性を担保するために国際的なプロセスも参考にしながら事故が起きないことを包括的に把握し、審査基準やテスト方式も検討しながら、人と比較して自動運転がより安全であることを示すようなプロセスをすでに獲得しております。しかし、実際のサービスにあたっては、具体的な形態に沿った審査確認方法等も重要かと思います。

合わせて、次のページにある、警察庁様が施行されている特定自動運行許可制度も同様に、様々な視点で安全を担保しておりますが、交通ルール遵守の在り方を含む、具体的な事例に沿った審査の在り方の明確化が必要かと思います。次のページお願いします。

最後に、再掲のため詳細は省略いたしますが、①から③まで検討いただきたい留意点をまとめております。特に留意いただきたいのは2点目です。関係者への刑事的責任を追及する場合、従来法に基づき車両の安全性が維持されていると認められる場合でも、運転者が運転した場合と自動運転車による場合とで責任追及に差異が生じるなら、その範囲と根拠を明確にしてから議論を深めることが重要かと思います。データ共有に関しては、すでに事務局より論点が提示されていますが、範囲や目的・手段等について、産業界としても提案に向けて協力いたしますし、継続的な議論に関しては事務局から機会を提示していただけると思いますが、傍聴者も含め、参加が必要と考えられる方には参加いただき、議論が継続できることを望んでおります。以上です。

小塚主査: ありがとうございます。次に、議事2ー(4)に移りたいと思います。業務上過失致死傷罪の現状等についてということで、法務省刑事局の刑事法制管理官室の玉本管理官にお願いをしております。それでは玉本様、よろしくお願いいたします。

玉本管理官:
(以下「資料6:法務省説明資料」に基づきご説明)

法務省刑事局刑事法制管理官の玉本と申します。よろしくお願いいたします。

説明の機会をいただき感謝申し上げます。業務上過失致死傷罪に関する基本的な考え方や、刑事手続の一般的な流れ、また、業務上過失致死傷事件の捜査・公判の現状等についてご説明します。

まず、業務上過失致死傷罪についてご説明します。資料の2ページをお願いします。自動車に起因する事故により人が死傷した場合、一般的に適用されうる罪として過失運転致死傷罪がありますが、これは基本的には人が自動車を運転していると評価できる場合を対象とするものでございます。運転者がいない自動運転による死傷事故の場合は、基本的には、刑法の業務上過失致死傷罪の適用が問題になると考えられます。この業務上過失致死傷罪は、刑法で業務上必要な注意を怠ったことによって人を死傷させたものは、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処すと規定されております。

刑法上の過失につきましては、資料3ページに記載されております。過失とは注意義務違反のことであるとされておりまして、その注意義務の内容は記載されているとおり、結果の発生を予見する予見可能性とその義務、及び結果の発生を未然に防止する結果回避可能性とその義務と解されております。予見可能性につきましては、判例では、抽象的な予見可能性では足りず、具体的な予見可能性が必要であると解されております。また、予見可能性は、地位、年齢、職業、専門性等、行為者の立場に相当する一般人を行為当時の状況に置き、行為者の認識していた事情を前提とすると結果の発生を予見しうると判断できるときに肯定されると考えられております。繰り返しにはなりますが、注意義務違反が認められるためには、結果の予見可能性のほか、結果の回避可能性も前提となります。その上で、例えば医療過誤事案におきましては、注意義務違反の有無は、診療当時の臨床医学の実践における医療水準を基礎に判断されるものとされています。

次に、刑事手続の一般的な流れについてご説明します。資料5ページをお願いします。事件・事故が発生しますと、通常は警察官が捜査を行い、事件を検察官に送致します。検察官は警察官とともに必要な捜査を行い、起訴・不起訴といった終局処分を決定することになります。検察官の不起訴処分に対し被害者側に不服がある場合、検察審査会という機関に対して不服の申立てをすることができます。

次に、検察官による起訴・不起訴の判断についてご説明いたします。資料6ページでございます。刑事裁判において有罪を認定するためには、合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証が必要であるとされており、民事裁判よりも厳格な高い立証水準が求められています。検察官は、捜査によって収集した証拠を基に、犯罪が立証できるかどうかを判断し、その上で、犯罪を立証できると考えられる場合であっても、犯罪の軽重や犯罪後の情況などを考慮して起訴をしないことができます。そして、検察官は事案の真相を解明した上で、様々な事情を総合的に考慮して、起訴の当否を判断しております。このように、起訴・不起訴は具体的な事実関係・証拠関係を前提に、個々の事案ごとに判断するものでありますので、個別具体の事案を離れて画一的な基準を作成することは困難な面がございます。

続きまして、業務上過失致死傷事件の捜査・公判の現状等についてご説明いたします。資料9ページです。業務上過失致死傷罪におきましては、事故原因・注意義務の内容・注意義務違反の有無等の解明が重要です。そのための主な捜査活動としましては、事故現場の実況見分、事故状況を撮影した防犯カメラ等の客観的証拠の収集・解析等、当該業務に関する法令や一般的なガイドライン・指針等の収集・精査のほか、事故に関わる行為を行った者等の取調べが行われます。これらの捜査が遂げられた後、検察官は、法と証拠に基づき、行為者に注意義務違反があったか否かを判断し、犯罪の軽重、犯行後の情状等を総合考慮して起訴の当否を判断しております。注意義務違反の内容は、刑法等で具体的に定められているものではなく、捜査機関において、個別の事案ごとに、収集された証拠や関係する法令等を基に判断されるものであり、その判断の当否は、最終的には裁判所により判断されることになります。また、検察官は注意義務の内容や違反の有無等を判断する場合に、法令や一般的なガイドライン等を検討するとともに、複数の専門家から意見を聴取する等して、仮に複数の専門家の間に意見の対立が見られるような場合には、それを踏まえてもなお合理的な疑いを差し挟む余地のない程度に犯罪事実を認定できるか否かを検討しているものと承知しております。

続いて、事故調査手続と刑事手続の関係についてご説明します。資料の10ページでございます。当サブワーキンググループにおきましては、資料に書きましたように、事故調査のために提供した資料・供述が刑事裁判や捜査に用いられるのであれば、事故調査に正直に協力できないのではないか、事故調査と捜査が同時並行で行われることにより、事故調査の進行が遅れてしまうのではないか、といったご指摘があったものと承知しております。この点に関する現状についてご説明いたします。まず、事故調査におきましては、関係者から様々な資料が事故調査機関へ提出されると思いますが、提出された資料は現行制度上も当然に刑事裁判の証拠とされるわけではございません。事故調査機関に対する供述は、刑事訴訟法所定の厳格な要件を満たす場合を除き、裁判での証拠とすることができないとされております。また、事故原因の解明や再発防止のために実施される行政機関による調査手続と、行為者に対する制裁を科すための刑事手続とでは、その趣旨や理念が異なり、一方が他方を代替しうるものではなく、一方が他方に優先すべき関係にもないと考えられています。そのため、現在の我が国において、一定の分野において、捜査機関の捜査権限に一定の制限を設けるような制度は存在しておりません。次のページお願いします。

事故調査機関と捜査機関の関係については、例えば、警察庁と運輸安全委員会の間で、資料に記載があるような覚書が交わされております。そして、このように、事故現場の保存や検視等について細目を取り決めて、事故調査機関と捜査機関が相互に調整しながら調査・捜査を同時並行で実施しているというのが実情でございます。事故調査と刑事責任の関係につきましては、近時の国会審議におきまして、航空機事故の関連で、再発防止のための真実の証言を確保するため、個人の刑事免責を導入すべきではないかという質問がございました。それに対し、内閣総理大臣から、航空機事故における個人の刑事責任の免除については、刑罰の意義・目的や被害者を含む国民感情も踏まえた慎重な検討が必要であるとの答弁がありました。その上で、仮に事故調査機関が収集した資料を捜査機関が使用できないようにする場合には、捜査実務との関係や、刑罰の意義・目的、被害者を含む国民感情との関係で課題があると考えられます。具体的に申し上げますと、例えば、事故調査機関は収集した資料を捜査機関に提供してはならないといったガイドラインを策定したとしても、刑事訴訟法上、捜査機関は強制捜査によりそれらの資料を収集できることから、実益が乏しいと考えられます。他方、法律により捜査機関による強制捜査を禁止する場合、刑事責任の追及がおよそ不可能となり、応報や犯罪の予防といった刑罰の意義・目的が実現されないこととなるほか、事故の被害者を含む国民の理解が得られるかという点も課題になろうかと考えます。なお、重大な事故は別として、軽微な事故については事故調査機関が収集した資料を捜査機関に使用させないこととするという考え方も有りうるかもしれませんが、事故の軽重自体が捜査を尽くした上で初めて判明するものだということが指摘できるかと思います。

自動運転車による死傷事故における刑事責任を免除する制度等についてご説明いたします。資料12ページをお願いします。当サブワーキングにおきましては、開発者等や企業について、刑事責任を減免することで事故の原因究明や再発防止に取り組むインセンティブを高めるために、訴追延期合意の制度や刑事責任を免除する制度を設けるべきではないかといったご指摘がございました。そこでまず、我が国の現行制度についてご説明いたします。我が国では、取引的捜査手法としまして、一定の財政経済犯罪と薬物銃器犯罪について、検察官と被疑者・被告人との間で、被疑者・被告人が他人の犯罪事実を明らかにするための協力行為をし、検察官がこれを考慮して、被疑者・被告人の事件について、不起訴処分にしたり、特定の刑を求刑したりすることなどを内容とする合意をすることができるという、捜査・公判協力型の協議・合意制度がございます。この制度は、平成28年の刑事訴訟法改正により導入され、現在開催されている「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」という有識者会議に提出されている資料によりますと、平成30年に施行されてから現在までの実績は3件とされております。この制度が導入された際に、制度の対象事件に人の生命・身体を侵害する犯罪等も含めることや、自己の犯罪を認めることと引き換えに検察官が不起訴処分等の有利な取扱いをするという、自己負罪型の協議・合意制度の導入についても議論がなされました。次のページをお願いします。

制度の対象事件につきましては、国会答弁を引用しておりますが、殺人等の人の生命・身体を保護法益とする重大な罪を犯した被疑者、被告人の処分等を軽減することについて、国民の理解が得られるかについては慎重な検討を要するといった議論がなされまして、制度の対象事件は一定の財政経済犯罪と薬物銃器犯罪に限定されたところでございます。また、自己負罪型の協議・合意制度につきましては、自己の犯罪を認めるかどうかを協議・合意の対象とすると、いわゆるごね得、つまり、最初から自白するよりも、まずは否認して検察官と交渉した方が有利な扱いが受けられるという事態を招き、結果として被疑者に大きく譲歩せざるを得なくなるのではないかといった意見も強く出された結果、採用されませんでした。そして、自己負罪型の協議・合意制度につきましては、まずは捜査・公判協力型の協議・合意制度を導入した上で、その運用状況等を踏まえながら、必要に応じて検討を行っていくのが適当であるとされたところでございます。以上を踏まえまして、仮に自動運転車による死傷事故について事故関係者側が再発防止策を講じること等と引き換えに、検察官が不起訴処分等をするという合意をすることができる制度を設けようとする場合には、捜査実務との関係や、刑罰の意義・目的、あるいは被害者を含む国民感情との関係で課題があると考えられます。具体的には、協議・合意制度につきましては、そもそも検察官側が合意に応じるとは限らない上に、検察官が合意に応じるかどうかの判断を行うためや、事故関係者側が仮に合意に違反した場合に、刑事訴追をできる可能性を確保しておくためには、検察官としては事案を解明し、必要な証拠を収集しておくことが前提となります。それ故、一般に合意ができるとしても、捜査が少なくとも相当程度進捗した段階以降とならざるを得ず、したがって、事故関係者側が捜査を受けること自体は避けられないと考えられるところです。以上のことからしますと、協議・合意制度を設けたところで、事故関係者側に事故直後から原因究明等に取り組む大きなインセンティブをそれ自体として与えるような仕組みには必ずしもならないのではないかと考えられるところでございます。また、検察官において、事故関係者側が再発防止策を講じるなどの合意内容を確実に履行しているかをモニタリングすることにも実際上難点があろうかと思います。そのほかに、現行の捜査・公判協力型の協議・合意制度が導入された際の議論を先ほどご紹介しましたが、そこで指摘されたような点も課題になるものと考えます。以上です。

小塚主査: ありがとうございました。これらの制度を正確に理解していくことは非常に重要になるかと思います。

それでは、議事2ー(5)に進めさせていただきます。刑事免責制度の導入は国民(特に被害者)の理解が得られないというプレゼンテーションをお聞きしたいと思います。それでは髙橋先生、お願いいたします。

髙橋構成員:
(以下「資料7:刑事免責制度の導入は国民(特に被害者)の理解が得られない」に基づきご説明)

私は理系の出身で、ある程度の知識を持っております。加えて、被害者参加制度をはじめとした制度の構築については私が中心に関わってきたこともあり、その点につき特にお話したいと思います。今回のレジュメが長いのですが、簡単に言うと第1章と第2章に分かれております。第1章では、刑事免責制度を設けるべきではないという結論とその理由が書かれてあります。理由には、四つあります。一つ目は、犯罪被害者の理解が得られないからです。二つ目は法体系に反するからです。三つ目は裁判を受ける権利を害するからです。四つ目が犯罪被害者も含め国民の規範意識に反するからです。続いて第2章では、刑事免責制度を設けない場合に、メーカー側の萎縮を排除するにはどうすれば良いかについて記述しております。同章では、実際には刑事責任追及の件数が圧倒的に少ないこと、事故原因及び機序を究明する専門的な機関の判断と、司法機関の判断の棲み分けをすれば、メーカーの萎縮もそれほど心配することは無いということが書かれてあります。そして、最後のページでは、私からの提言がいくつか書かれてあります。

まず、最初に、法律家は別として、一般の方やメーカーの方からすれば、刑事裁判手続きにおいて、昔は、まさかこんなことが起きていたのかというような、予想すらしていなかったことが起きていたことについてお話します。。2008年11月30日までは、被害者は刑事裁判手続において、告訴権以外に何の権利もございませんでした。殺害された遺族ですら、判決の期日や裁判の期日すら教えてもらえませんでした。さらに、判決文も貰えず、刑事記録については、コピーどころか閲覧も一切、制度として認められていませんでした。さらに大きな社会的な注目を浴びる事件では、遺族であったとしても整理券をもらって、抽選に当たらないと傍聴席にすら入れませんでした。このような前近代的なことが2008年11月30日まで平然と行われておりました。これに対して、同年12月1日以降は、犯罪被害者の権利が飛躍的に拡大しました。もちろんこれを作ったのは、すでに解散しておりますが、全国犯罪被害者の会、あすの会であります。すでに解散していますので、旧・あすの会とこれからは呼ばせていただきます。旧・あすの会が犯罪被害者の権利獲得を目指して、557,215名の署名を集めて、国民運動を始めました。当時は、電子署名が無い上に、Change.orgもありませんでした。街頭署名だけでこれだけを集めたわけであります。その結果として、2004年に犯罪被害者等基本法ができて、初めてここで犯罪被害者の権利が誕生しました。すべての犯罪被害者等は、個人の尊厳が尊重され、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有すると定められました。これを受けて、2005年から第一次犯罪被害者等基本計画検討会が始まりました。ここでは、犯罪被害者に対し、刑事裁判手続において様々な権利を認めようという議論がなされました。60年間続いていた刑事訴訟法の大原則、つまり、被害者は単なる取り調べの対象、証拠物の一つにすぎないという立場から、被害者に権利を認めようと議論されたわけです。このような抜本的な改正であったため、全11回にわたって議論が行われ、毎回2時間という予定を大幅に超える5時間にわたり徹底的に議論がなされました。その結果、2005年12月に犯罪被害者等基本計画が閣議決定されました。この基本計画では、刑事司法は社会秩序の維持に加え、犯罪被害者等の権利・利益のためにもあるということが明言されました。これを踏まえて、その後に開かれた法制審議会での議論を経て、2008年12月に被害者参加制度と損害賠償命令制度ができました。このように以前は、被害者は単なる証拠物であり、取り調べの対象にすぎなかったのですが、その後、被害者の権利が認められるようになり、この権利に基づいて被害者参加制度ができ、現在、15年が経ちました。このような流れのなかで、刑事免責制度を設けようというのでは、被害者や国民の理解を得られません。このことは、故意、重過失であっても、軽過失であっても関係なく、要は刑事免責制度自体が良くないということであります。これは国民の理解が得られません。

続いて資料の4ページ目になります。そもそも、刑事免責制度は法体系の秩序を害します。なぜなら、自動運転に限らず、医療の世界、航空業界、宇宙開発、原子力発電、このような科学が関係する分野において、刑事免責制度が設けられているような法制度は、私の知る限りでは存在しません。それにもかかわらず、自動運転だけ刑事免責制度を設けるというのであっては、国民の理解を得られません。特に、交通分野では、宇宙、医療の世界と比べ、圧倒的に事故件数が多いです。そのなかで、刑事免責制度を一律に設けるというのは、法体系の統一性と公平性を害します。

次に、裁判を受ける権利と抵触しないかということについてです。これは私見であり、特に交通犯罪に関する遺族が主張していることであります。さきほど述べましたように、刑事裁判において、被害者は取り調べの対象ではありません。あくまでも、刑事裁判手続において、被害者には裁判に参加する権利が認められております。それにも関わらず、刑事免責制度を設けるというのであっては、この被害者の刑事裁判に参加する権利をそもそも奪うことになりかねません。裁判を受ける権利を定めた憲法32条に反するのではないかという重大な疑念があります。

最後に、国民の規範意識にも反します。先程からの議論や前々回の議論を聞いておりますと、システムができあがることを前提とした議論をされているようにしか思えません。問題は、システムを構築する時にヒューマンエラーが入るのがほとんどだということです。ここで誰も責任を負わないというのであれば、被害者だけでなく、国民の規範意識に反するものであり、納得できるものではありません。以上のことから、科学技術発展のための萎縮の排除は、刑事免責制度を設けることによってなされるべきではなく、第2章で述べる方法による、つまり専門的な事故調査委員会を創設することによってなすべきと私は考えております。

資料の第2章の6ページを説明します。まず前提を申し上げたいのですが、科学技術に関して刑事責任を追及された件数は実際には圧倒的に少ないということです。ほとんど無いと言って過言ではありません。にもかかわらず、メーカーが委縮するというのは、莫大なリコール費用による営業上の損失、それに続く株主代表訴訟の提起、これを恐れてのことであるとしか私は思えません。もちろん医療過誤訴訟でも、民事訴訟であれば件数は多いですが、刑事訴訟では、刑法の謙抑性の見地から、合理的な疑いをさしはさむ余地が無い程度の立証が見込まれない限り、検察庁は起訴しておりません。その点を理解してもらいたいと思います。実際の裁判例を見てもらいたいと思います。医療事件では、都立広尾病院の誤点滴事件が挙げられます。生理食塩水を点滴すべきところで、消毒液を点滴した事案です。横浜市立大では、患者を間違えて手術してしまった事案です。気管挿管用チューブを間違えて入れてしまった事案もあります。このように実際には、あまりにもお粗末な事案だけが起訴されています。さらには、アトピー性皮膚炎を直すために歯を治療すれば良いというような詐欺事件もありました。これも刑事として立件されました。このように、科学的な知見そのものが対象となっているのではなく、その周辺部分において刑事責任が追及されているのがほとんどであります。科学的知見そのものが争われているわけではないということをご理解いただきたいです。

次に資料8ページですが、確かに他方で、科学的知見が争われた例が無いわけではないです。その典型が、三菱ふそうトラックバス事件と、杏林大学医学部付属病院割り箸事件です。これらの事件は、皆様もご存じと思います。結論をまず先に申し上げたいと思います。科学の世界においては、事故原因と機序の究明については第三者委員会や独立行政委員会等別の機関を設けて、その科学に関する判断について、司法機関がこれを尊重すべきだと私は思います。それを前提として、過失、因果関係、先程法務省が言っていた予見可能性、結果回避可能性、結果回避義務違反、因果関係の有無、これらについては司法の専権的な判断にすべきだと思います。ただし、司法機関は、事故原因と機序の究明について第三者委員会や独立行政委員会の判断を尊重すべきではありますが、法的な拘束力を認めることは、行政機関は終審として裁判を行うことはできないと定めた憲法76条2項に違反するおそれがありますので、できないと思います。具体的な事例をお話します。資料9ページの三菱自動車工業リコール隠ぺい事件であります。これは大型トレーラーのハブと呼ばれる、車輪と車軸を連携する部分が損傷し、左の前輪が外れて、歩いていた主婦を死亡させ、子供達に軽傷を負わせたという事件です。この事件が起きるまでに、同じような事件が多く起きておりました。これらをことごとくリコールせず、社内で隠しておりました。ところが、実際に死亡事件が起きて、社会問題化されて、大きな取扱いになったわけであります。メーカー側の主張は、ハブの損傷は、ユーザーの整備不良による摩耗損傷というものでした。これに対して、検察は、そもそも製造、設計段階におけるハブの強度不足と主張したわけであります。これは地裁、高裁、最高裁といずれも有罪が確定しております。争点は、金属疲労でハブが損傷したことは間違いないものの、その金属疲労が起きた原因がユーザーの整備不良にあるのか、元々の設計製造段階の欠陥にあるのかという点でした。最高裁が有罪を認めた理由として、そもそも、ハブは廃車の手続が行われるまで絶対損傷しないという意味で、一生ものと呼び習わされているものであるということが強調されております。にもかかわらず、実際には事故が起きるまでに16件、ないし18件、もしくはそれ以上のハブの損傷が起きていました。ここから根本的な設計製造段階の欠陥であるということが推定できるとしました。実際にメーカーは強度耐久性の試験方法を実施しておりませんでした。最高裁では、医療事件でもそうですが、前提となる試験や注意義務を尽くさないでおきながら、それによって資料が不足し、資料が不足したから因果関係を立証できないという論理は認められておりません。資料が不足したら、資料を不足させた者に責任を負わせるというのが最高裁の根本的な考え方であります。そういったことから、最高裁は、本来一生ものと呼ばれるにも関わらず、ハブに起因した事故が何度も起きていたこと、そして、メーカーが強度耐久性試験を実施していなかったことなどから、ハブの損傷の原因は、設計製造段階における根本的な強度不足にあったと認定しました。したがって、これを未然に防止するために、リコール等の改善措置を講じるべく、それをしなかったことが注意義務違反にあたるとして刑事責任を負わせたわけであります。次に資料11ページです。この点で注意していただきたいのは、この事件は、かならずしも故意・重過失の事案ではないという点です。たしかにリコール隠しは故意です。しかし、人を死亡させたことは故意ではありません。人を死亡させることが故意であれば、殺人罪です。本件は業務上過失致死罪です。業務上過失致死罪は重過失と違います。ですから、本件は必ずしも故意・重過失の事案ではないということも理解してもらいたいです。つまり、普通の過失の事案であったとしても、刑事免責制度を一律に設けてしまうと、こうした三菱リコール事故のような事案であっても免責されてしまうという危惧があるのです。これでは国民の理解は得られません。

次に資料12ページです。ここでは、一つの方法として、司法取引もありうる、全くないわけではないということを書いております。しかし、この司法取引も法務省が言ったとおり、自分自身の刑事責任を免責するために真実を話すという仕組みでは、国民の理解を得られません。あくまでも、背後にいる管理責任者、技術開発に関する担当取締役がいるはずなので、その人達に本当の責任があるのであれば、そういう巨悪を罰するため、巨悪の犯罪事実を自白することと引き換えに、自分自身の刑事免責を、あるいは不起訴処分や量刑を軽くしてもらうという取引をすることはありうる方法だと思います。その場合であっても、単に組織罰、法人を罰するだけでは国民の理解は得られません。やはり、巨悪を罰するということで、背後にいる管理責任者である個人と法人の両方を罰する両罰規定を設けないといけないと思います。今、いろいろな意見で組織罰という言葉が出ておりますが、これは組織だけを罰するのではなく、両罰規定であるということを理解してもらいたいと思います。

次に、杏林大学割り箸事件ですが、私は検察庁に対して喧嘩を売るつもりは無いのですが、正直に言うとよくこのような事案を起訴したと感じています。検察側の主張は、割りばしがのどに刺さり、脳まで到達し、小脳に出血して、小脳で血種ができ、その血種が脳幹を圧迫し、呼吸が止まって死んだというものでした。それに対し、実際は資料14ページのとおり、小脳だけではなく、脳に流れている脳静脈洞という太い静脈に割りばしが刺さって、そこが閉塞されていました。血液は心臓から頭に流れて来ますが、その血液は、逆に静脈を通って頭から出ていきます。その静脈がふさがれているので、血液が全て頭の中で滞留してしまうのです。さらに、血漿中の水分が脳に集まり、浮腫が起きます。そうすると脳はパンパンに腫れ上がります。資料15ページに書いてありますが、司法解剖した時点で明らかになっていたことなのですが、そもそも小児の脳の重さの平均は1240グラムなのに、司法解剖をしたら1510グラムもありました。他方小脳でできた血種の重さはたった26グラムにすぎませんでした。これを見ただけでも、司法解剖の時点で、検察官は小脳血種による死亡という機序をあきらめなければならなかったと思います。そして、小脳血種の場合は、小脳は後頭部の外表面にあるので、容易に手術で取り除くことができます。しかし、脳静脈洞だとこれは深部にあるため、ここで血栓を取り除くというのは非常に難しいです。救命の可能性がほとんどありません。司法解剖の段階から、救命の可能性が無いというのが明らかであるにもかかわらず、これを起訴してしまいました。従いまして、検察としては、事前にいろいろな医者から話を聞き、医学の知識に関して謙虚に話を聞くべきだったと思います。これを聞いていれば、起訴はされなかったと思います。

以上を踏まえ、最後に私の提言を述べます。資料16ページですが、専門的な事故調査委員会を設けるべきです。そして、そこで判断された原因と機序に関しては、司法機関は尊重すべきだと思います。これは科学の領域ですから、安易に法律家が入り込むべきではありません。そうでないと冤罪を起こします。ただし、憲法76条2項がありますから、法的拘束力まで持たせてはいけません。他方、予見可能性、結果回避可能性、結果回避義務違反、因果関係の有無、これらは法律のことですから、法律家が判断すべきことであります。そして大切なことは、委員会のメンバーをどうするかであります。メンバーは9名以上が良いと思います。なぜかと言うと、航空機に関する事故調査委員会もたしか9名であります。そして、我が国の裁判員裁判も実は9名です。フランスにおける参審制度も10名です。つまり、9名から11名ということが多いです。ですから、そのくらいの人数が良いのではないでしょうか。そして全会一致にすべきであります。なぜなら、多数決で、真実ではないことが科学的な真理になるわけではないからです。科学的な意見が一致しないのであれば、必ず両論併記とすべきです。さらに、大切なことは、他の科学者が検証できるように資料を残すことです。実は、割りばし事件では、実際の脳の標本がほとんど破棄されておりました。これでは後から検証ができません。後から第三者が検証できるよう必ず資料は残し、公開するということであります。最後に、これは法務省に申し上げたいことですが、裁判所に医療集中部・専門部、知財部、労働部、行政部という専門部がたくさんあります。警視庁にもサイバー部隊という専門部署があります。にもかかわらず、専門部署が無いのは、法務省、検察庁だけです。確かに、検察庁にも、刑事部、特捜部、交通部、公判部があります。ただ、こう言っては失礼ですが、交通部の副検事の場合保有している科学的知識が足りないと思っております。とても事故調査委員会のようなレベルには達していないのではないかと思っております。そこで、検察庁にも、科学専門の科学捜査部を設けるべきです。そうすることによって、不当な起訴も回避できますし、また国民の理解、特に犯罪被害者の理解を得られるのではと私は考えております。以上です。

小塚主査: ありがとうございます。私もいろいろと考えるところがありました。本日は4件プレゼンテーションをいただきまして、非常に勉強になりました。特に刑事免責について第1回からいろいろ議論になっているのですが、この言葉をいろいろな方がいろいろな意味で使っているのではないかと気になっておりました。私も法律家の端くれですので、免責というのは、本来であれば事故発生時の法律に基づいて責任が発生する事案の責任を免除されること、あるいは、刑事でも民事でも民法や製造物責任法のような基本法であれば責任が発生するところを、自動運転に関する特別法を作って、自動運転に関してだけは責任が発生しないようにすること、こういうものがいわゆる免責なのではないかと思います。ところが、議論の中ではそうではなくて、こういう場合には刑事責任は発生しないというような確認や、これから制度を作っていく上で、こういう場合には責任が生じないという制度が良いのではないかという意見をいただいております。これらは、免責というよりも制度設計として責任が生じないという話です。これらの言葉は使い分けていった方が良いと感じました。以上の二つと別に、法務省から本日説明してもらいました、手続の中で、本来であれば追及されるべき責任があるのですが、一定の条件を満たすということで、特に刑事の場合、それを起訴しないという扱いにする不起訴処分や起訴猶予があり、そのような意味で免責と言われることがあります。この点も含め、用語をきちんと分けた方が良いのではないかと思います。特にサブワーキンググループは社会の注目を集めているようでして、一般の方も議事録をご覧になると思いますので、必ずしも法律やテクニカルな議論だけではなく、どういう議論をしているのか明確にしていった方が良いというのが私の感想です。それと関連するかわかりませんが、これまでの会合で免責と発言したものの、その趣旨をもう少し補足したいというご要望を頂いている構成員もおられます。資料も作っていただいていて、皆様にも事前配布されていると思いますが、まずは落合構成員に、資料を基にご趣旨を明確に述べていただくという意味で、これまでおっしゃっていた免責というご主旨を明らかにしたいというご希望と受け取っており、少し発言をお願いできますでしょうか。

落合構成員: ありがとうございます。それでは、私から手短に述べさせていただきます。まず、今回の会議での議論についてですが、最初の会議の際も将来的に関する点と、今回の検討に関わる点の両方を述べました。そのなかで、今回の検討における目標が少し明確ではなかったのではないかと思います。かつ、その後議論に参加している中で、結論に至るのが難しい場合がかなり多いということを改めて感じているところがあります。その中で、特に刑事については過失の内容を整理していくことと、どのような注意義務があるのかということを整理していくべきと思っております。その意味で一定の合理的な運行できる時間や場所の社会実装を行っていきながら、さらに内容を詰めていくという段階であると思います。次のスライドをお願いします。

やはり、既に議論に出ているところですが、過失の内容自体はどのように特定ができるのかどうかということは規範的概念で難しいという点について、今日自工会からも説明があったように、技術開発において目標にする点がどこにあるのかを前提となる社会条件として決めておくことが重要であると思っております。ガイダンス等を整備していくということも重要ですし、過失に関する議論もしておりますが、結果的には国交省においてこれらの認可等を行っていくと思いますので、その時の水準がどこにあるのかにも沿って検討すべきことがあると思います。実際どういう性能が求められるのか、開発者や運行を行う者にどのような役割が求められるのか、また、他の道路利用者に対しどのような行動を期待すべきか、道路等から情報のインプットや補助を受けるような場合にどう考えるのか、といったことが基本的な事項として有りうると思います。こういうものが定まらないと、何をすれば良いかが決まってこないのではないかと思っております。次のスライドをお願いします。

特に行政機関側のガイダンスや認可にあたって、最終的に規範的な要素があるためできない部分があることは承知しておりますが、可能な部分については定量化するが望ましいと考えております。実際、国家戦略特区の話もしましたが、高速道路等で場所を区切って実施する等、世の中における期待という意味でも、そこにさすがに人は入ってこないと思われるような場所を設定する等、合理的な社会実装のための環境整備も考えられると思います。次のスライドをお願いします。

これは今後の点ということで、今回もそうですし今後もそうですが、開発者側が最大限改善を行っていくためのインセンティブを意識して制度設計をするということが重要であろうと思っております。インセンティブというのは、ペナルティを強くするということで取り組まざるをえなくなるということも含めてインセンティブと書いております。その中で、前回の会議で議論されたような事故調査や情報連携制度をそれぞれ作っていくことで、ヒヤリハットの情報連携や、実際の事故時の適切な実態解明と適切な処罰に繋がると思います。将来的には、法人に対する強い制裁制度や、事故調査に対する協力義務等の整備もしっかり行っていくことも必要かと思います。

小塚主査: ありがとうございました。先程私が考えた整理との関係で言いますと、先生のご主張としては、責任が無い部分を明確にしたルールが良いのではないか、という理解でよろしいでしょうか。

落合構成員: はい。現状、直ちに法改正を行うのは難しいと思いますので、注意義務がどのあたりにあるのかを明確化していくことで、小塚主査がおっしゃっていたような方向に議論していくことが良いと思います。

小塚主査: 須田構成員からも免責という発言をしたものの補足したいというご意向があると伺っております。お願いできますでしょうか。

須田構成員:今日は非常に貴重なご意見をいただきまして勉強になりました。ありがとうございます。私は二つの立場でお話ししたかと思います。一つは事故調査ということで、的確な証言が得られないおそれがあるということで、司法取引的な意味での発言をいたしました。もう一つは開発側の話で、そちらについては座長からもあったとおり、責任が無いというようなルールを作っていくということです。規則を守って設計して認可を受けた場合、条件を満たせば責任が無いということを明確化するという趣旨での発言でした。もちろん悪意や故意の場合を免責するべきとは考えていません。

小塚主査: 守らないといけないはずのところを守らないということが起こると、そこにヒューマンエラーという要素が出てくるということを、髙橋構成員が言っておられましたが、いろいろな事態を想定しておかなければならないと思います。時間も限られておりまして、若干延長させていただくことがありうるかもしれませんが、どなたからでも自由にご発言、ご意見を頂きたく思います。それでは、髙橋構成員、稲谷構成員の順序でご発言をお願いします。

髙橋構成員: 刑事免責の議論、定義はいろいろと錯綜していることはそのとおりでしてそれは整理しなければならないと思います。メーカーの話を聞いていると、システムプログラムはきちんとできていればほとんど事故が起きないというのはそのとおりです。しかし、それは結論であり、問題はシステムがきちんとできるかどうか、アルゴリズムがきちんとできるかどうかが問題です。実際に起きるミスというのは、方程式を間違えて入れてしまった、数値を間違えて入れた、単位を間違えて入れた、何か不正をした等、そういった時に起きます。そのため、プログラムの構築段階におけるミスを避けるような努力をしなければなりません。そのためには、民事の裁判例をいくら検討しても意味はありません。民事では、自賠法3条によって立証責任が転換されていますので、事実上、責任原因はあるということから出発しています。つまり、民事訴訟の主な争点は、損害額にあります。ですので、どういった場合に事故が起きて、だれに不注意があったかどうかを検証するためには、刑事裁判例を集めなければ意味が無いと私は思います。これがまず第1点です。

第2点目として、民事の責任の範囲ですが、自賠法3条では、運行供用者が責任主体です。自動運転になったときは、自賠法3条で言うところの運行供用者という言葉をメーカーの開発者、技術開発者、あるいはメーカーそのものに置き換えれば良いと思います。そうすれば矛盾は生じないのではないかと思います。また、政府保障事業等によって保障すれば良いのではないかという意見もありますが、現行の政府保障事業では不十分です。政府保障事業は最高額がたかだか3,000万円であります。しかも、自賠責保険とは違って、過失相殺もされます。この点、自賠責保険ではほとんど過失相殺されません。そして、任意保険の場合は、大体今どんな場合でも損害額は、6,000万円から1億円くらいであります。ですから、本当に被害者保障をしようと思うのであれば、政府保障事業をさらに拡大したものを作らないかぎり、被害者の救済にならないと思います。

小塚主査: 続きまして、稲谷構成員、お願いします。

稲谷構成員: 本日は様々な報告を頂きまして、ありがとうございます。大変勉強になりました。あとで法務省からの報告に対するコメントとして改めて申し上げますが、私は刑事免責という言葉はサブワーキンググループで使ったことがありません。しかし、訴追延期合意と刑事免責が並べられていたので、一応明確にしたいと思います。まず、私は個人の刑事免責について発言したことはありません。過失の成立範囲や違法性阻却事由については明確化していく必要があるという趣旨で発言させていただきました。また、法人制裁につきましては、どちらかというと強化すべきという方向で申しておりました。もっとも、刑事制裁については社会的非難という強い側面を持っており、機能的に活用するということはなかなか難しいということもあります。そのため、行政制裁を活用するという観点から、社会システムとして安全性を向上するための方法として訴追延期合意の方法があることを提案させていただいてきたということを、ここで明確にさせていただきます。なお、訴追延期合意が単なる刑事免責とはかなり違う制度であるということは、後ほど改めてコメントいたします。その前に、まず全てのプレゼンテーションにコメントさせていただきます。

まず藤田構成員のご発表の事前的・一般的評価アプローチには賛成いたします。AIの現在の開発手法や性能の管理手法を鑑みますと、人間と同じような挙動をさせようとするとかえって不可避的にパフォーマンスが下がってしまうということも指摘されております。そのため、適切な費用便益分析に基づいて、先程も落合先生からも定量化という言葉がありましたが、定量化された形でプログラムに関する安全基準を策定して、そこを満たさない場合欠陥があると判断するような、事前的・一般的評価アプローチが望ましいと思います。なお、その場合には、保障されない部分が出てくる可能性があることについてもご指摘があったと思いますが、先程髙橋構成員からもご発言がありましたが、手厚い補償措置を考えるということが一緒に問題になると思います。他方、製造物責任との関係なのですが、シミュレーションや実証実験などを市場投入前にいろいろ尽くし、その段階では事前的・一般的評価アプローチによって「欠陥」なしとなったとしても、実走行挙動が予見、意図しない形に現れ、結果的に「欠陥」ありとなってしまうということもあり得ると思います。その場合、欠陥の発生時期を引き渡しとの関係でどう理解するかという話もご提題にあったかと思いますが、その点が問題となると思います。引き渡し時点で固定せず、常に「欠陥」ありという考え方もできるとも思いますが、どうしても一定の範囲で開発危険の抗弁のようなものもここで考えざるをえない部分もあるかと思いますので、このあたりの問題を踏まえて、さらに責任範囲を明確化していくことや、さらにそういった場合の公的な補償措置をどう考えるのかについての議論も必要なのではないかと思いました。また、安全基準と結びつける形で、事前的・一般的評価アプローチを用いて「欠陥」を定義して責任範囲を確定するという方法論を取った場合には、技術開発の状況の変化に応じて安全基準をアップデートできるような仕組みもセットで入れていくのが良いと思いました。そうすることで規制の陳腐化を避けることができるのではないかと思います。そのためには、本日事務局からも発表がありましたとおり、情報提供の制度やそのためのインセンティブの設計というものも丁寧にやっていくということが必要になると思います。それから最後のスライドでもありましたが、因果関係の立証負担や欠陥そのものの立証も場合によっては難しいケースもあるかと思いますので、この場合には事故調査機関の調査による専門的判断の結果をなんらかのかたちで事実認定に反映していく制度を上手に作っていくことが良いのではと考えました。

自工会のお話ですが、6ページの確認事項で、現行法と何が違うのかということが問題になっていたかと思います。現行法の場合、おそらく安全性能を満たして引き渡された自動車に関しては、自動車の危険が運行者に管理可能なレベルに下がっているので、引き渡された後の危険の管理は運転する人がやることになるという、危険の移転と呼ばれる話が責任分界点として機能していると思います。ところが、無人の自動運転につきましては、藤田構成員の方からも自賠責法解釈との関係でご説明がありましたが、危険のコントロールを運行者が基本的にできなくなっており、開発者の段階で存在する危険がそのまま発現するわけです。特に運行者が何も問題を起こさないというのが前提ですが、その結果として、流通後も残存するリスクの管理が開発者側に正面から問われるために、これまでと少し責任の整理の仕方が違うのかなと思います。ただし、特に事前的・一般的評価アプローチに基づいて藤田構成員が整理されたような意味での欠陥概念を用いるのであれば、欠陥が無い場合には責任を負わないという意味で、抽象的には責任範囲の変化が無いとも言えるかもしれません。一方、ご指摘があったとおり四象限の図の中で、例えば突然の飛び出しのケースでは、飛び出したのが子供なのか大人なのかによって、誰が危険を管理すべきかについて判断が分かれうるようなケースもあるように思いますので、誰がどういうかたちでリスクを管理すべきなのかについて、走行環境等をどのように整備していくのかという議論も含めて、明確化していく必要があると思います。

ここからは法務省に対するコメントです。ファクトの確認が一つ重要なポイントではないかと座長からご指摘がありましたので、私の理解する限りファクトも共有させていただきます。法務省の資料6ページにありますとおり、個別事情に則して起訴・不起訴が決定されるということは全くそのとおりで、異論は無いです。他方、当事者主義、起訴便宜主義に基づいて、検察官が広範な訴追裁量を有している米国や英国であっても、犯罪の類型に応じて詳細な訴追裁量指針を作っているというのは現にあると存じております。特に、高度な専門性が求められる場合において、類型に応じて訴追裁量指針を整備していくという傾向は比較法的に強いと理解しております。そうすると、無人運転の文脈で刑事責任範囲の確定を行うにあたり、私も違法性阻却事由の一つを挙げて、それが良いのではないかと言いましたが、過失の存否でいくのか、違法性阻却事由の有無でいくのかという論点について、刑法理論上さらなる検討が必要であるということは否定できませんが、しかし、少なくとも考慮すべき事項として挙げられている事情は、いろいろな刑法学者の間で一致しているように思われますので、無人運転の文脈でどのような事情がどのように起訴判断に影響するのかについてある程度整理していくということ自体は可能と考えております。その際に、落合構成員のご指摘とも関係しますが、欠陥の有無を判断するにあたってプログラムの安全基準の策定とリンクさせるのであれば、こういったものとも平仄が合うようなかたちで、最終的には開発者や運用者のガイドラインの策定に繋げることが重要なのではないかと思います。仮に、髙橋構成員のご提案にもありましたが、調査前置や調査の結果の活用との関係で、重大事案において調査前置のような制度を整備するとすると、独禁法96条1項のように事前の調査を行った専門機関の告発権限を考えてみるということも訴追裁量の関係で、方法として考えられると思いました。次に、12ページにおきまして、訴追延期合意制度と刑事免責制度が並列で書かれておりますが、両者の性質は相当に異なると思っておりますし、現行の協議合意制度とも性質が異なっていると思いますので、この点を少し付言させていただければと思います。訴追延期合意制度も様々な形態やバリエーションがあります。訴追延期合意制度は、当局側が捜査を行う前に、企業側が自主的に情報提供するということはもちろんですが、髙橋構成員が問題提起されていたような組織の体制再編等を実施することや、あるいは被害者への賠償金や政府への制裁金の支払い、さらには約束の履行状況のモニタリングするための監督者の選任を含むような、かなり様々な問題解決措置の履行を、事案の性質に鑑みて、必要に応じて企業に求めていくという制度であります。したがって、悪質な事案においては、企業の負担は相当なものになりますので、基本的には実効的な制裁の一種として理解されております。単に免責のような話、取引をして免除してあげるというよりは、訴追はしないものの、その代わり問題解決のために必要なことは全部やってもらうことを約束させ、確実に履行させるという仕組みと理解してもらう方が良いと思います。最初に申し上げたことの繰り返しになりますが、刑事罰については社会的な非難の意味がありますので、今日もご指摘がありましたとおり、国民感情に配慮すると、機能的な観点から刑事罰を活用するということには慎重になるべき点があると思います。ですので、訴追延期合意については法人に対する行政制裁制度に関するものとして整備し、その実体的な構成要件は、藤田構成員からご提案があったような、無人走行車両の客観的な安全性を基準とするものとし、法人に対する行政制裁であることを踏まえて故意や過失を問わないように上手に整理して、うまく活用するのが良いと思います。

最後に、髙橋構成員に対してです。ご提案にあったような、事故調査を前置させていくという仕組みは、無人運転のように科学的な知見について高い専門性が要求される場合は非常にメリットが大きいのではないかと思います。特に無人運転については、海外企業も入ってくる可能性があり、グローバルな調査が必要になる可能性もありますし、さらには巨大な企業の内部にある資料をどのように集めてくるのかということや、あるいはその中で活動する実際に悪質な個人がいた場合に、その個人に対する情報を集めてくるということになりますと、吉開構成員の資料にありましたとおり、企業の情報提供が重要な役割を担ってくるようになると思います。他方で、これまでの須田構成員のご発言にもありましたとおり、事故調査への協力と、他の制度とのインセンティブがうまくとれていない部分があるのではないかということは、調査の現場で活動されている方は実感としてお持ちであると思います。このインセンティブ整合性の問題も個人というより、企業を対象として整合させていくということが重要と思っております。繰り返しになりますが、企業が一番資料を持っておりますので、このインセンティブの調整という観点から、先程申し上げた趣旨での訴追延期合意制度をうまく導入していくということがとても重要なソリューションになるのではないかと思ったところです。こういったかたちで訴追延期合意制度を入れますと、事案の真相解明に繋がりますし、悪質な個人に関してはその者に関する情報もきちんと手に入りますので、個人に対する適切な刑事罰を実現するという観点から、大量の情報を有する企業の協力を確実にする制度として機能し、事故調査を前置した場合のインセンティブの調整という観点からも、実効的な刑事罰の実現という観点からも有効な、つまり事実解明と正義の実現の双方の目的に役資するように訴追延期合意制度を活用するべきではないかというのが私の意見です。

小塚主査: ありがとうございました。それでは、佐藤構成員からお願いします。

佐藤構成員: 本日は貴重なプレゼンをありがとうございました。まず、藤田構成員の内容について感想というかコメントですが、私としても事前アプローチの方が自動運転においては良いと思っております。ご指摘いただいていた点についての意見ですが、考えの前提としては、欠陥の考え方を変えていくのだとしても、髙橋構成員がおっしゃっていた自賠の運行供用者を拡げるというアプローチではなく、国交省が整理したとおり、レベル4においても現行の自賠で対応した上で、製造物責任法の欠陥の要件で議論しておけばよいと理解しております。その上で、事後的アプローチの問題として、そもそもプログラムに依拠して良い状態で、運行供用者が車両制御の内容を保証させられることになるというご指摘がありました。こちらは一次的には運行供用者が責任を負うというのは国交省の整理でも許容されていると理解しておりまして、その考え方からはそこまで問題ではないのではないかと思っております。事前的アプローチにおきましても、結局は事前的アプローチで安全であると保障されているものについては、いずれにせよ自賠法に基づく責任は負うということと思いますので、そこ自体はそこまで大きな問題になるという話ではないと理解しました。そうすると何か異なることがあるのかというと、保険会社等による保険金支払後の自動車メーカー等に対する求償の話になり、その局面で立証の観点から異なってくると思いましたが、事前的アプローチの方が欠陥の存在の立証が容易になるのかは必ずしも明らかではないように思います。次に、事後的アプローチについては、どういったプログラムが定量的に安全なのか、人と比べて有意に安全なのかということを基準化していくという、その基準を決めること自体は難しい作業と思っております。ご指摘いただいている問題点の中で、人間の運転者であれば過失ありとして責任を負う対応の運行ですが、人間であれば回避できるということなのであれば、当該事故は予見可能であり、かつ回避可能という整理になるのかなと思います。そうすると、そこは、シミュレーション等で事前に防いでおくべき対象になると言われる可能性があります。自工会の資料にもあった四象限の予見困難かつ回避困難というところだけが許容されてしかるべき、ということだとすると、事前的アプローチを取っていくなかでも、通常回していくようなシミュレーションを通じて、事前に予見可能なところはつぶしておく必要があるのではないかと思いました。シナリオの組み方については、自工会からも指摘があったところで、例えば他の交通参加者がどういった挙動を取るのかということをどこまで考慮すべきなのかということは難しい問題と思っておりまして、突然の飛び出しであればそれは回避できなくてもやむをえないということは理解できます。他方、他の交通参加者の違法行為をどこまで考慮すべきかについては、例えば横断禁止のところで左右を見ながら速足で渡っている人がいるとか、深夜に路上で寝てしまっている人がいるということも相応にありえるケースですので、過去の裁判例等を見ながらどこまでを予見可能かつ回避可能と整理すべきとして考えていくべきなのかというところが難しいと思いました。少し話がずれますが、様々なシナリオを組んでも、結局事故が起きてしまったときに、保安基準のなかのいくつかの抽象的な要件との関係でどう考えるかも問題と思います。例えば、作動中は道交法の規定に適合する、「他の交通の安全を妨げるおそれがない」といった、やや抽象的な要件があるなかで、今議論してきたような定量的な安全がどこまで整合していくのかということは非常に難しいと思います。先程の抽象的な保安基準については、結果的に事故が起きてしまった場合に、あとから振り返ってみると、形式的には保安基準を充足していないような、例えば何らかの道交法の規定に形式的には違反しているという可能性があり、そうすると欠陥があったと認定されてしまう可能性があります。このように、保安基準が現状は曖昧に規定されてしまう以上、先程話したようなシナリオ等も含めて、一定のガイドラインを作って、欠陥にならない水準やレベル感を議論していく必要があると考えております。これと併せて、免責という話ではなく、どこまでやれば過失や様々な刑法上の要件を満たさないものであるかというところも、例えばガイドライン等を作成できるのであれば議論していくべきなのではないかと思います。

小塚主査: ありがとうございました。それでは、吉開構成員、お願いします。

吉開構成員: 今回意見を出させていただいたことの補足をしたいと思います。免責については先程座長のお話からもあったとおり、有罪になるのに責任を追及しないということなのか、そもそも責任追及ができないのかということは、区別して進めるべきであろうと思います。ただし、責任追及できるのだけれども、免責を認めるとすれば、考えられるのは傷害や怪我が比較的軽い場合ですが、このような場合には、現在も自動車運転に関して刑が免除という規定がありますので、こういったところは参考になると思います。

二つ目として、専門家の意見と刑事責任との関係についてということで、自工会の波多野構成員からもいろいろご報告があり、メーカーの方からするといろいろご心配もあると思いました。しかし、刑事裁判も刑事訴追も、結局ファクトに基づいて行いますので、そのファクトの一つとして技術の専門家の意見は非常に重要であって、これを無視して突き進むというのはむしろ例外なケースと言えます。髙橋構成員のご報告にもありましたが、刑事責任を追及できるということは、お粗末な事案であるとか、一般の基準からしてもかなり外れている事案になるのは本来の姿と考えられます。そういった時に、一般の水準から外れていないというところが主張できるのであれば、ことさらに刑事責任の追及ということで萎縮する必要は無いのではないかと思います。

三つ目の司法取引の関係ですが、客観的証拠を集めることがむしろ重要と考えているのですが、今稲谷先生からも訴追延期の話がありましたが、訴追延期も結局訴追ができるということが前提であり、訴追ができない場合に訴追延期はできません。調査に関するインセンティブということで訴追延期という話がありましたが、むしろメーカーは事故が起きた時、自分達は、先程の波多野構成員からの話にもありましたとおり、正当に設計して、正当に製造して、かつ正当に使用していたということを調査委員会に対して答えていくということで、そもそも訴追ができないというかたちにしていくのが本来の姿であり、そのようなかたちで協力して自分たちの責任が無いことを明確にしていくことはむしろインセンティブになりうるのではないかと考えております。

小塚主査: ありがとうございました。時間になってしまっておりますが、10分ないし15分延長することを認めてもらえますでしょうか。後藤構成員、お願いします。

後藤構成員: 今日はいろいろご報告いただきありがとうございました。途中で小塚座長にまとめていただいたとおり、刑事免責という言葉の意義をもっと精緻に使うべきであるということを私も前から感じておりました。今回、そもそも業務上過失致死罪が成立するのか、過失があるのかという話と、情報を取得するために司法取引のようなものをするのか、あるいは軽微な損害の場合に免除するというお話も吉開先生から頂きましたが、それらについてはっきり区別して論じることができるようになったのが今回の大きな成果と思っております。

いずれの点も重要かと思いますが、本日の自工会様からのお話を聞いておりますと、おそらく自工会様のご関心は、第一には業務上過失致死罪が成立してしまうのかどうかという点にあるのかと思われました。その点で、予見可能性と結果回避可能性の話を考えると、そもそも結果が回避できないものである場合には成立しないということで理解しておりますし、そもそも予見困難であれば、通常業務上過失致死罪は成立しないと思います。そうなりますと、残るのは資料の左上の象限になるかと思います。この領域については、メーカーはしっかり対応すべきだと思いますが、なかなか思うようにいかない場合があるのではないかというのが髙橋先生からのご指摘であったかと思います。

髙橋先生のお話の中で出てきた三菱ふそうトラックの脱輪事件ですが、これは先生からご指摘があったとおり、リコール隠しであり、誰が当たって無くなるかという点についての予見可能性は無かったと思います。しかし、そのまま放置していたらそのうち重大な事故が発生するだろうという、広い意味での予見可能性は十分にあったということで認められたものと理解しております。おそらく自工会様も、そもそもあってはならないこととして整理されているかと思われますが、もし同じようなことが起きたとすれば、業務上過失致死罪が成立してもやむを得ないとお考えになっていると、本日のご発表を聞いて理解しました。リコール隠しのようなことはあってはならないし、あれば当然刑事罰が付いてくるという点について、認識の相違はないと思われます。自動運転車の場合には、事故が発生し、それによって実はプログラムに問題があったということが判明した場合には、リコールをしなくてもオンラインでのソフトウェアアップデートで対応できるかもしれず、それを適時に行わなかった場合には、業務上過失にあたるということは十分ありうると思います。その点についても、自工会様はおそらく納得いただけるのではないかと思っております。

問題は、初めは気づかなかったようなエラーが潜んでいて、それによって事故が起き、たまたまそのエラーが発見された場合です。その時に、そのエラーがあったことにより、それを見逃してしまったことが最初の段階から業務上の過失にあたるのかどうかという問題があります。藤田先生からの欠陥の定義に関するお話とも関連するかと思いますが、これまでの、自動運転ではない通常の車の感覚からすると、業務上過失とはおそらく言えないかと思います。もちろん、行政上の保安基準等を満たしている前提で、かつ、そのようなミスが起こらないような検査の過程がメーカー側で取られていることも前提かと思いますが、その上でどうしても起きてしまう事故について、最初の段階では過失とは言わないのではないかというのが私の感覚です。仮にそうだとすると、問題はあまりなく、2度目以降をいかに防ぐかという話になりますが、とはいえはっきりと確認された事象が無いというのが自工会様や落合先生からのご指摘であり、且つ不安の根源かと思います。これについては立法の必要は無く、これまでの判例のリステートメントになるかもしれませんが、それを確認すればよいのかと思っております。

そうした場合、左上の、予見可能で回避可能だがどうしても起きてしまう事故について、刑事責任を問わないとすると、民事責任や行政責任等でどのように担保していくのかという話になります。例えば、製造物責任を追及しやすくするという意味で、欠陥の立証責任をメーカーへ転換するということはありうるかもしれません。その時に、運転者、もしくは自動運転車の利用者がその責任を負うというのは違和感があるという指摘を藤田先生から頂いておりますが、メーカーがしっかり対応することを誓えるのであれば、今の政府保障に比べてもう少し充実したことができると思っております。

まとめますと、対立点はそれほど多くないという印象です。一番大きな対立点は、刑事訴訟手続のなかで、データを取るために狭義の刑事免責・司法取引を行うか、という点になるかと思いますが、そこは日本の刑事・司法の中で大きな問題になってしまうこととなりますので、先ほど申し上げた話と区別して議論していく必要があると思いました。以上です。

小塚主査: ありがとうございました。損保協会の横田様、ご発言いただけますでしょうか。

横田構成員: ありがとうございます。損保協会の横田でございます。プレゼンいただいた皆様、ありがとうございました。自賠法や自賠責保険に触れられている点や、あるいは普段損保業界として事故対応をしているという観点で、藤田先生の資料について少し言及させていただければと思います。

二つのアプローチの中で、事前的・一般的評価アプローチの問題点の部分に記載された点につきまして少し懸念がございます。手動運転の場合に比べて被害者救済が後退することがないような、現行と同等の、迅速な被害者救済の確保のための対策を講じることが不可欠であると考えております。一つは、非常に低い確率で人間の運転者が防止できる事故を防止できないという点がありました。評価基準の設定については、確率的評価だと思いますが、設定によっては被害者救済が図られなくなってしまうということも考えられるかと思いますので、評価基準の設定が非常に重要だと思っております。加えて、政府保障事業のところですが、先ほどの髙橋先生からのお話以外の観点からコメントをいたします。政府保障事業の場合、事業に請求できるのは被害者だけでして、被害者の方で一旦治療費等を負担いただいた後、後日政府の保障事業に請求するという運用になっておりますので、迅速な被害者救済が図られなくなるおそれがあるという課題もございます。そういった課題への配慮を頂きながら考えていく必要があると思っております。

事後的・個別的評価アプローチの問題点のところで、運行供用者が個人の場合において、プログラムによる車両制御の内容を保証させるということが挙げられておりましたが、前回議論の対象となったデータ活用の部分が整理されれば、本来責任を負うべき者がより明らかになるかと思っておりまして、個人に責任を肩代わりしてもらうということは軽減されていくのかなと考えております。以上です。

小塚主査: ありがとうございます。続きまして、西成先生、お願いいたします。

西成構成員: ありがとうございます。手短に二つコメントいたします。
まず、自工会資料の四象限の部分が理解しやすかったです。しかし、どの象限に入るのかが一番難しいと思っております。例えばサイバー攻撃等は巧みで、機械の故障のように見せかけることができます。先々週話題になりましたが、自動運転の目であるライダーセンサーに特殊な電磁波を当てると、物体を消すことができ、そこには何もないこととして走らせるということも可能になっております。そのような新しい技術が出てきた時のためにも、データをしっかり集める必要があるかと思います。

もう一点、本日議論はされておらず、これから議論されるか不明ですが、未然防止が最も重要だと思っております。そのため、ヒヤリハットデータを収集する機関も必要だと私は思います。先ほどからの刑事免責の話とは関係ないかもしれませんが、事故に至らないものの危ないと判断された事象に関するデータを匿名的に集め、メーカー等に共有する仕組みも必要だと思いました。以上です。

小塚主査: ありがとうございました。時間を延長してしまいましたが、本日も充実した議論ができたかと思います。

免責という言葉の意義については途中で私が整理させていただきましたが、加えて、西成先生がサイバー攻撃のような極端な例を出されましたが、どれくらいのサイバー攻撃、あるいはどのような事態に対して備える必要があるのか、どこまで対応する必要があるかについて、自動車メーカー含め開発現場で悩んでおられることかと思いますし、どこまで対応すれば過失にならないのかという意味での責任の限界を気にしていらっしゃると思います。このあたりは、最終的にはガイドラインになるかはわかりませんが、ある程度のコンセンサスが無いとなかなか前に進まない部分もあると感じております。他方、その手順を尽くす過程で実は尽くされていない、例えば行われるべき実験が行われていない場合や、虚偽のデータが出されるというようなことがあれば、これは刑事責任・民事責任を含めた責任があるという点について、否定される方はいらっしゃらないと思います。それが例えば企業体質で利益優先のような圧力の下で行われていたとなれば、企業全体の責任となり、経営陣上層部の責任にもなりかねないというのは髙橋先生が繰り返しおっしゃっていることだと理解しております。この点についても、正面から否定する方はいらっしゃらないと感じました。それらの問題を全てクリアした上で、本日藤田先生が最初におっしゃった問題があるかと思います。例えば、人間の運転者であれば気づいてブレーキを踏めるような子供の飛び出しについて、無人であるがために止まれなかったという場合に対し、どのようなプログラムを用意しておくべきかという問題があります。極端な解決策として、例えば運転者に限らず、乗車している人が押せば車両が止まるようなスイッチを搭載するということが考えられます。しかし、それを搭載すると、止めなくても良い時にまで止めてしまい、それによって周囲の車との間に別のタイプの事故を起こしてしまう可能性があります。このように、どのような技術が最も適切かという、非常に深淵な問題がございます。どこまで議論すれば自動運転を社会実装できるのかという点は大きな問題であり、今後の会合の中で議論する機会があるのかなと考えております。

本日はこれにて閉会とさせていただければと思います。最後に、デジタル庁の蓮井審議官から総括をいただきます。蓮井審議官、お願いいたします。

蓮井審議官: デジタル庁の蓮井です。本日は2時間を超える非常に長い時間の中、様々なご指摘をいただきましてありがとうございました。自動運転に係る様々な課題のうち、システムの安全性についての基本的な考え方、刑事責任に関する現行制度・運用、さらに、自動運転の実装に向けて踏まえるべき論点など、様々なご意見をいただきました。その中でも、刑事免責という言葉の使い方や整理学を踏まえて議論を深めていただいたと思います。今後に向けての有益なご示唆を頂けたと思いますので、大変ありがとうございました。先ほどの説明で申し上げたとおり、自動運転の実装というのは、交通事故の減少にも大きく貢献するという観点からも、求められていることだと理解しております。その意義も踏まえながら、本日ご議論いただいたようなシステムの安全性の考え方、さらには刑事責任の在り方の議論を深めていくことの重要性に改めて気づいた次第でございます。先生方のご議論の結果、従来解明されていなかった事柄についての理解が深まっていく過程にあるかと思いますので、今後も引き続きお力添えをいただきながら、丁寧に議論を積み重ねてまいりたいと思っておりますので、何卒よろしくお願いいたします。本日は誠にありがとうございました。

小塚主査: ありがとうございました。

数点事務連絡をいたします。本日、時間の制約もありましたため、追加でご意見等がある方がいらっしゃいましたら、今週末までに事務局へご意見いただくようお願いいたします。

2点目でございます。本日の会議資料は、後日デジタル庁のホームページに公表させていただきます。議事録は今までと同様に、内容をご確認いただいた上でデジタル庁ホームページへ公表させていただく予定です。

3点目ですが、次回のサブワーキンググループは3月下旬を想定しております。議題も含め、事務局より別途連絡があるかと思います。

以上、本日はお時間を超過してしまい大変失礼いたしました。これにて第3回サブワーキンググループを閉会とさせていただきます。ありがとうございました。