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AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方検討サブワーキンググループ(第5回)

概要

  • 日時:2024年4月26日(金)10時00分から12時00分まで
  • 場所:デジタル庁・オンライン
  • 議事次第:
    1. 開会
    2. 議事
      1. 自動運転の行政法学的課題
      2. 関東交通犯罪遺族の会(あいの会)意見 等
      3. 事務局説明(第4回AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方検討サブワーキンググループにおける主なご意見、とりまとめの方向性、今後のスケジュールについて)
    3. 意見交換
    4. 閉会

資料

議事録

児玉参事官: はじめに事務連絡です。本日の会議は、対面・オンラインでのハイブリッド開催となります。対面でご参加の構成員の皆様は、挙手の上ご発言をお願いいたします。オンラインでご参加の構成員の皆様は、会議中はカメラオンで、発言時にはマイクのミュートを解除いただきご発言をお願いします。なお、他の方が発言されている際は、ミュートにしていただければと思います。また、傍聴者の方は、カメラ、マイクをオフにしていただきますようお願いいたします。

次に、資料を確認します。事前にお送りしました議事次第に記載のとおりとなりますが、資料といたしましては、議事次第、構成員名簿、原田構成員説明資料、関東交通犯罪遺族の会(あいの会)説明資料が2種類、髙橋構成員説明資料、本田技研工業株式会社九鬼様説明資料、事務局説明資料、構成員提出資料、出席者一覧となります。お手元にない等の状況がございましたら、オンラインでご参加の皆様はTeams のチャット機能、もしくは事務局までメールにてお問い合わせいただければと思います。

本日の出席者については、時間の制約もありますので、失礼ながらお手元の出席者一覧の配布をもちましてご紹介に代えさせていただきます。なお、落合構成員が途中参加予定と伺っております。今回はゲストスピーカーとして、関東交通犯罪遺族の会(あいの会)より副代表理事の松永様、本田技研工業株式会社よりチーフエンジニアの九鬼様にご出席いただいております。また、前回に引き続き、DADC から大野様、菅沼様も陪席者としてご参加されています。なお、本会議の資料及び議事録は後日公開となりますこと、ご承知おきください。

それでは、ここからの進行は小塚主査にお願いしたいと思います。小塚主査、お願いいたします。

小塚主査: ありがとうございます。本日はお忙しい中対面、並びにオンラインにてお集まりいただきましてありがとうございます。それでは議事に従いまして進行いたします。

はじめに、議事2-(1)自動運転の行政法学的課題です。それでは原田構成員、よろしくお願いいたします。

原田構成員:
(以下「資料3:自動運転の行政法学的課題」に基づきご説明)
ありがとうございます。本日は、自動運転の行政法学的課題についてご説明いたします。今映っているのが問題の外観図です。自動運転をめぐる行政法学的課題は多数存在しておりますが、本日はこの三つに着目してお話しさせていただきます。第一が運転者の責任で、道路交通法に関連するものでございます。第二がメーカーの責任で、道路運送車両法が関係します。第三が公物ないしインフラとしての道路に関する法制度でございます。公物管理としての、あるいは事故発生時の賠償責任に関する国家賠償法2条が含まれております。ただし今回は国家賠償法の問題ではなく、自動運転の事故発生時の責任分配の在り方を扱っております。次のページをお願いします。

運転者の責任についてですが、周知のとおり、現行の道路交通法は、車両を主語とし、運転者あるいは使用者の義務が中心に規定されております。とりわけ運転者に対する行為義務の設定が大勢を占めておりまして、運転免許制度がその中心にございます。また他の行政法制度と比較して、刑事罰による制裁が極めて多いという特徴がございます。そしてそれが反則金制度と結合することにより、義務履行確保手段として非常に高い実効性を持っております。これに対して、完全な自動運転が実現すると、運転者の概念が当然消滅するため、これに関する義務の名宛人がいなくなり、刑事罰を中心とする非刑罰的処理の前提を失うことになってしまいます。そこで選択肢としては、運転者ではなく使用者に着目して行為義務を再編し、現在の放置違反金のように、例えば車検の拒否等と結び付けて一定の効果を図るということが考えられます。放置違反金は反則金とは異なり、義務者の支払能力がない場合には、最終的な義務履行確保ができないということを書いております。もう一つは、自動車の製造者の行為義務として再編し、製造者に対する刑事罰に変更するということです。しかし、自動車の運転者あるいは使用者に比べて、製造者は多くの車両を製造するため極めて広範になり、刑事罰を結合させるとなると、委縮効果を発生させる可能性があると思います。

そこで次に製造者の責任でございます。道路運送車両法は、自動車の構造あるいは装置等に関する保安基準を定めており、使用者はこの基準に達しない車両を運行の用に供してはならないとされています。また、自動車製作者に対しては、保安基準に適合していないおそれのあると認める自動車を基準に適合させるため、改善措置を講じることを勧告でき、さらに公表・命令と進んでいくこともあり得ます。また、型式指定との関係においても保安基準適合性が指定要件となっており、これを欠いた場合には指定取り消しがされることとなります。この保安基準のような行政上の法令は民事責任との関係でも一定の意味を持っています。具体的には、不法行為に基づく損害賠償の成否を判断する極めて重要な要素である、注意義務の一要素として行政法令上の義務が位置づけられており、行政法令上の義務違反があれば、注意義務違反があると判断されやすいと言えます。他方で、民事上の注意義務は行政法令遵守に尽きるものではなく、他の要素が考慮されることもあるため、行政上の義務を遵守していれば、絶対に民事上の責任を負わないという関係にはありません。完全な自動運転が実現した場合、運転者の概念が消滅するということも考えられ、製造者の役割が更に大きくなります。また、自動運転の技術革新のスピードは速いため、保安基準のアップデートが必要になると思われます。行政法の中には、建築基準法のように施設の工事の着手時点で安全基準を固定する方式をとる、いわゆる既存不適格という方式を取っていますが、2012年改正後の原子炉等規制法のように、改定された基準への適合を要求する場合もあります。そこで道路運送車両法についても、原子炉等規制法と同様に即時適用を想定した規定を今後おくべきであろうと思われます。また、保安基準自体のアップデートを迅速に行わない場合には、行政側が国家賠償法1条の権限不行使の責任を追及される可能性があります。最高裁の筑豊じん肺訴訟等のいくつかの判決で、こうした立場を示しています。さらに、自動運転車の製造が必ずしも国内メーカーだけではない現状を前提とすると、域外適用の議論も必要であろうと思います。現在でも道路運送車両法では指定外国製作者等の規定があり、もちろんその意味で域外適用を想定してはいるのですが、執行管轄権との関係で、実際に執行しようとなると困難があることが十分想定できます。そこで、近時の立法例のうち参考になるものとしては、国内代表者あるいは代理人を設置させ、そこに行政調査あるいは行政処分等を行うという方式が考えられます。また、自主規制を組み合わせる船舶の安全に関する制度をまねて制度化することも考えられるかもしれません。次のページをお願いします。

最後に、完全な自動運転の世界における新たな責任分配・行動制御の在り方について、行政法的な観点からご説明いたします。現在の自動車事故については、基本的に運転者個人の責任が中心で、そこに自賠責保険が結びついております。また、道路設備の問題があれば、国家賠償法2条の営造物責任の問題ですし、国家賠償法1条の権限不行使の責任が問題となることもあります。あるいは、非常に例外的ですが、公務員の刑事責任が追及される可能性もゼロではありません。
しかし、完全な自動運転の世界においては、事故の原因行為あるいは行為者の特定が難しく、また予見可能性・結果回避可能性を事後の裁判において判断することになるため、難しい問題を抱えているように思われます。そこで、現在のやり方である原因者に着目し、その個人としての責任があるかないかを判定する、これをここではデジタル的・ミクロ的責任配分と呼んでいますが、仮にこういったことを行うと、たまたま事故現場と密接な関係にあった者に全ての責任を負わせる結果となることや、あるいはそれを恐れて様々な萎縮効果が働いたりするおそれを消すことができません。そこで、基本的にイメージしているのは自動運転の事故全てではなく、自動運転の、今申し上げたような性格を持つ、原因行為・行為者が特定されにくい、あるいは困難であるというものについて、現在の不法行為法、あるいは国家賠償法の特別法として、いわゆる補償法を制定し、これまでのそうした事故における賠償水準を維持しつつ、その費用を統計的に分配するという、アナログ的責任分配をすることを考えております。まず自動車の使用者は、これまでは行為義務違反という形での責任を普通は負わないはずですが、自動運転車両から日常の便益を受けているということに着目し、いわゆる受益者負担金として一定の金銭的負担義務を負うということが考えられます。また、自動車製作者は、報償責任や危険責任の観点から分担金を払うということにします。更に、道路あるいは道路交通行政においては国家賠償法2条の責任追及があり得るということと、自動車安全行政において国家賠償法1条の責任追及があり得ることについても、拠出金を拠出することにして、被害者に対する給付の財源を確保するというイメージをしております。自動運転における事故が発生した場合には、原因究明組織が事故原因を分析することといたしますが、その結果は、その事故における給付の費用分担に反映させるのではなく、次の会計年度におけるマクロ的な費用分担割合の変更のための統計的な指標として位置づけます。また自動車製作者は、安全性評価組織との間で、車両やプログラムの安全性評価を受け、その成績により分担金が変動するような仕組みを考えております。これは、保険的な制度を用いた行動変容を盛り込むことで、自動車製作者がより安全性の高い自動運転車両を製作するインセンティブとするということと、また安全性評価に関する機関を国の行政機関から独立させることにより、いわゆる域外適用の障壁をクリアすることも意図しております。もちろんこのような大がかりな制度を作るにはコストがかかりますし、また実現可能性は低いと思いますが、様々な前提を無視して理想図を描くとこういったシステムもあり得るのではという趣旨でご紹介いたしました。以上です。

小塚主査: 原田先生、ありがとうございました。次に議事2-(2)に移ります。関東交通犯罪遺族の会(あいの会)からご意見を頂戴できると伺っております。ご説明は松永副代表理事にいただけると伺っております。松永様、よろしくお願いいたします。

松永氏:
(以下「資料4:関東交通犯罪遺族の会(あいの会)意見書」に基づきご説明)
どうぞよろしくお願いいたします。一般社団法人関東交通犯罪遺族の会、副代表理事の松永と申します。この度はこのような検討会にお招きいただきまして、誠にありがとうございます。我々は通称あいの会と呼ばれますが、あいの会は愛する家族を交通事故で奪われた遺族団体であり、私自身も2019年4月に高齢ドライバーのアクセルとブレーキの踏み間違い事故によって妻と娘を亡くした遺族になります。この度、本検討会にて意見書を提出させていただきましたので、私の方から読み上げさせていただきます。

一つ目として、オートマ車が普及するようになってから、高齢者によるペダルの踏み間違い事故が起きたり、認知症が進んで瞬時の判断や動作ができなくなったりして、高齢者による事故が絶えません。そうしたとき、いつも被害を受けるのは、交通弱者であったりルールを守っている善良な市民であったりします。

しかし、だからといって、高齢者に自主的な免許返納を求める呼びかけだけでは事故は減りません。「地方」では、移動する手段がとても不足しているからです。都市部であれば、地下鉄や電車が網の目に張り巡らされ、バスも頻繁に出ています。しかし、地方では地下鉄・電車がなかったり、バスも1日に数本しか走っていなかったりするところがあります。コンビニに行くだけでも、歩けば1時間かかるところもあり、都会では考えられないような環境です。また、農業や林業等に携わっている方々であれば、車を運転できないことは死活問題となります。自動運転は、これらの深刻な問題を解決してくれる、足に代わる「希望の星」です。

さらには、トラックやバス業界、タクシー等の人手不足も解決してくれるでしょうから、国民全体の経済にとっても有益です。そして何より、交通事故は劇的に減ります。最も大切な人の命を沢山救ってくれます。交通事故の被害者にとっても、国民全体にとっても、自動運転車に一番の期待をしているところです。ですから、自動運転はぜひとも推進していただきたいと思っております。

次に、自動運転であっても、事故は完全にはなくならないという前提で制度を検討していくべきだと考えています。

では、それを前提に、事故を限りなくゼロに近づけるための対策として、どんなものがあるでしょうか。

一つは、自動運転車には、外部エアバッグ等の装着を義務付けるというのも方法としてあり得ると思います。

二つ目には、より根本的な対策が必要だと思います。道路の環境整備です。例えば、交差点では歩車分離を徹底する、住宅街の制限速度を引き下げる、ほとんどの車が自動運転化されるまでの移行期は、都市部においては自動運転車の専用レーンを作る、標識や信号機をもっとわかりやすくするなどがあり得ると思います。

最後に、もう一つ重要なことを申し上げます。交通事故をゼロに近づけるための、「大前提」のお話です。

法律の素人の私達がこのようなことを皆様に申し上げるのは釈迦に説法かとは思いますが、交通犯罪の遺族にとっては、とても大事な事であるため敢えて申し上げます。

たとえ、自動運転であっても、それを作る技術者の方がきちんと法律を学んで、交通ルールをしっかりと守るようなシステムを作ってください。

今の車は人が運転します。人はどうしてもミスをします。教習所で学んだ交通ルールを忘れていたり、覚えていてもいつの間にか守らなくなったりするからです。だから事故はなくなりません。

では、自動運転の場合はどうでしょうか。自動運転は人が運転しているわけではありません。

では、機械が勝手に運転しているのでしょうか。それとも、神様が運転してくださっているのでしょうか。どちらも違います。自動運転をするようなシステムを、人間がプログラミングし、「人間が機械に運転させている」のです。もし、自動運転のプログラムを作るときに、それを作る人間が交通ルールを知らなかったらどうなるでしょうか。それによって自動運転の車は、交通ルールを守らないで公道を走ることになってしまいます。そうなれば、いつか大きな事故が起き、悲しむ被害者が新たに生まれます。事故を限りなく無くしていくための自動運転で、逆に事故が減らないことに繋がってしまう恐れがあります。

また、そうした事故が起きてしまったとき、交通ルールを守れないような車両を作った技術者やメーカーが一切刑事罰を受けないとなったら、国民は納得できないと思います。そればかりか、そんな自動運転は誰も信頼しなくなって、怖くて乗らなくなってしまうと思います。結果、自動運転は普及するどころか衰退していく可能性があります。

では、その「交通ルール」とは何のことでしょうか。私達に身近な「道路交通法」です。ですから、メーカーの方々は、道路交通法をきちんと学んでいただき、ルールをしっかりと守れるようなシステムをプログラミングして、自動運転車を作っていただきたいと思っております。そうやって作られた車であれば、事故は限りなくゼロに近づいていくのではないでしょうか。

その上で、道交法を守っても事故が起きてしまったのであれば、それは人間が運転している場合でも事故が起きるということですから、刑事責任を問われるようなことはないと、あいの会の顧問の先生から聞いております。

当然私達は自動運転をぜひ推し進めていただきたいと思っておりますが、まずそれに携わる道路環境を整えていただきたいということがありますし、やはり今の社会においても、もし仮に社会の人々全員が道路交通法をしっかりと守っているのであれば、事故は限りなくゼロに近づくはずです。

しかし、道路交通法を忘れてしまったり、守らなかったりする方がいる以上、事故は起きてしまいます。そのため、自動運転でも同じようなことが言えるのではないか。道路交通法を守らない上で、目の前に人が来たからセンサーで止まる、といったものではなく、道路交通法をしっかりと守る上でのプログラミングをしていただければ、事故はより起きないようになりますし、その上で事故が起きてしまえば、刑事責任を問われることはないとあいの会として考えております。以上です。どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。

小塚主査: 松永様、どうもありがとうございました。本当に切実なお声を聞かせていただきまして、大変勉強になりました。ありがとうございました。

次に、これに関連し、構成員の髙橋先生から資料をご提出いただいております。髙橋先生、資料のご説明をお願いできますでしょうか。

髙橋構成員:
(以下「資料6:自動運転化にあたって必要なこと」に基づきご説明)
髙橋です。私もこの検討会が始まる前は、漠然としたことしか頭にしかなかったのですが、いろいろな先生方に資料を出していただいたり、お話を伺ったりするうちに、段々と自分の頭の中も整理されてきており、大変勉強になりました。結局行きつくところがどこにあるのかを考えたところ、予見可能性と結果回避義務との関係になると思います。確かに車を作るときに、ここに人がいる、あそこの人はどのような動きをするか、ここではどんな行動を取ろうとしているのかなどそういったことを中心にこれまでも作っていると思います。予見可能性は、人間がプログラムを作る以上は限界があります。どのようなケースで事故が起きてきたのか、そういったことの集大成が道路交通法であり、裁判例です。道路交通法には、注意義務の内容、主に結果回避義務が具体的に書かれています。結果回避義務は、こういう状況だから、こういうことが予見され、予見されるから、こういうことをしなさいという義務です。道路交通法にはそういった義務が詳しく書かれてあります。逆に言えば、自動運転の場合であっても、道路交通法に書かれてあるこういうことをしなさいという義務をきちんと守れば、おおかた事故は起きません。メーカーの方々は、どうしても目の前に人がいるとか、何らかのイベントが発生したとか、そういった目前の動的な現象にどう対応しようかという視点から物事を考えるのかもしれません。確かにそれも大切なことです。しかし、ここは一度振り返ってみて、我が国が今まで作ってきた集大成である道路交通法と裁判例、これをきちんと学んでいただきたいです。これを守っているときが大体予見できる場合に相当します。ですから、結果回避義務を、言い換えれば、道路交通法をきちんと守っているプログラミングであれば、事故が起きたとしてもそれはもともと予見可能でなかったため、責任は負わないということになります。それに対して、道路交通法に従わないプログラミングを作ってしまうと、事故が起きたときは、もともとそれは予見可能であったにもかかわらず、注意義務を怠ったから事故が起き、だから刑事責任を問われる、ということになります。裁判官の発想も同様で、結果回避義務から先に考えます。結果回避義務があるかないか、その程度はどうか、から考えて、結論を先に出します。そして法理論的には、無罪にするためには予見可能性がなかったと言う必要があるため、予見可能性が無かったと言い、有罪とするためには予見可能性があったとする必要があるため、予見可能性があったと、後付けの理屈を付けている場合が多いのです。

ですから、結果回避義務が書いてある道路交通法をしっかりと学んでいただき、忠実にそれに沿うようなプログラムを作っていただきたいです。道路交通法の中で特に問題となりそうな具体例が38条1項前段、36条、42条及び70条です。道路交通法が定めている義務の多くは、実は今の自動運転である程度カバーされている義務ばかりですが、カバーしづらいのが、これらの38条1項前段、36条、42条、70条です。ところで、成人は別として、本当に保護しなければいけないのは小中学生です。小中学生が道交法を守ることは期待してはならず、守らないと思わなければなりません。よくお母さんが、男の子は死にに行くようなものだと言いますが、私自身も4、5歳頃の小さいときに、車より自分の方が速いと思っていました。ですから、母親が繋いだ手をわざと離して、車の前に飛び出したことがあります。轢かれそうになったものの、車は急停止し命は助かり、やはり車の方が速いと思いました。そのくらい、小中学生の男の子はそういった予想外のことをします。ですから、彼らが道交法を守ることを前提に作ってしまうと、事故が起きます。車の運転者や自動運転のプログラムを作る方が、道交法をきちんと守るようにしなければなりません。小中学生で一番事故が多いのが、信号機のない横断歩道、信号機がある交差点での右左折時です。これら二つをカバーしたのが38条1項前段です。そしてもう一つは、そもそも信号機も横断歩道もないただの十字路(T字路も含みます)、まさに出会い頭の事故と言われるものが、36条、42条ですが、ここで多くの事故が起きるわけです。最後の70条は少し異質なものであるため、後ほどもう一度お話しします。大人は横断歩道をなかなか守らないひとも多いですが、子供はきちんと守ります。ただ、守りますが、飛び出します。よって事故が起きます。それを避けるための規制が、38条1項前段です。これについて、前回のサブワーキンググループ第4回にて詳しくお話ししました。

ではこれを自動運転に適用するためにどうすればよいでしょうか。38条1項前段で言うところの「人がいないことが明らかな場合を除いて」等の条文の書きぶりでは自動運転のプログラムを作るときに難渋すると思います。ですから、「人がいないことが明らかな場合」にあたらない場合について、具体的に政令や規則に落とし込み、具体的に書くことが必要だと思います。資料の青字箇所は、前回から紹介している道路交通法コンメンタールの中から引用したものです。横断歩道等の入り口に歩行者等が立っているが、車の通過を待っているのか、人を待っているのかまたは横断をしようとしているのか不明である場合、横断歩道等の入口に電話ボックスや塀等の障害物があって、人がいるかいないのかよく分からない場合、道路の中央に街路樹があり、横断歩道等の右側がよく見えない場合、雨降りの夜で街灯が無い場合や見通しの悪いカーブの先に設置された横断歩道等の場合などは停止できるような速度で走行しなければなりません。

資料の左右の写真は同じ場所です。信号機が無い横断歩道であり、停止できるような速度で進行しなければなりません。右側に生垣がありますが、これは人がいるかいないか明らかでない場合にあたります。右側の写真をよく見てください。右側の茶色の生垣の下にコンクリートの白い壁がありますが、その壁の向こう側の裏に、私がわざと置いたベビーカーの前輪が少し写っています。ベビーカーを引く人は当然後ろにいて、ベビーカーが前に位置するため、ベビーカーの前輪だけが少し見えているのです。こういったケースでは、人がいないことは明らかとは当然言えません。そして、すこしずつ前に進行し、停止線の直前まで来れば、ようやくベビーカーの全体像が見えてくることになります。停止線の手前に来るまでは分からないのです。もう一つの写真は、小学校の目の前の道路の写真です。カーブの先に横断歩道がありますが、カーブしているため、停止線の近くまで行かなければ左側が全然見えません。私であれば、これで事故が起きれば、国家賠償法第2条により、横断歩道の設置に関する瑕疵で国の責任を追及します。こんなところに横断歩道を作るべきではありませんが、実際には、このような横断歩道は多く存在します。こういった場面でも、急ブレーキをかけることなく自然なブレーキ操作だけで停止線の直前で止まれるような速度で走らなければなりません。こういったことが、果たして今の自動運転でプログラミングされるかといえば、私は不十分ではないかと思います。

自動運転には5段階があります。レベル1はアクセル・ブレーキのペダルから足を離してよい、レベル2はハンドルから手も離してよいが、前方はきちんと注視しなければならない、レベル3は前方を見なくてもよいものです。レベル2で人が乗っていて自動運転しているケースが、今、全国の特定場所で運行しています。レベル2は、フットオフかつハンドオフであるためほとんど自動運転です。途中で何か起きたら急に人が代わることになっています。私は、このレベル2の自動運転車両を走行させているコースで、覆面調査を行ったことがあります。残念ながらその自動運転車は、横断歩道直前まで来ても、全く減速しませんでした。そして運転手が気づき、初めてそのときに手動に切り替えたのですが、そのときには遅きに失して、減速せずそのまま私の目の前を通って行きました。業者を特定することになってしまうため、敢えて業者名は出しませんでしたが、実際にそういったレベル2の自動運転車が走っています。

続いて、道交法36条、42条の問題と解決方法です。実は法律家の間でもこの条文を問題視しているところがあります。結論から述べると、横断歩道もない、信号機もない、通常の十字路の場合には、例外なくどんな場合でも見通しが悪ければ必ず徐行しなければなりません。自分の走っている進行車線が交差道路よりも3倍、4倍以上広かったとしても、優先道路でない限り徐行しなければならない、と書かれています。要件として、左右の見通しの悪い、交通整理の行われていない、十字路だけでなくT字路も含む交差点では、自車の通行している進路が優先道路であるときを除いて、通行道路と交差道路との広さ狭さに関わらず、徐行しなければならないと書いてあります。しかし、これは少々厳しすぎるので、実務上の扱いとしては、現実には、自車の通行道路が交差道路よりも明らかに広いときは、徐行しないで仮に事故が起こったとしても、起訴猶予になるか、あるいは起訴されても罰金刑が多いです。実際には交差道路側の方の運転者に責任を負わせており、自分の方には責任がないようになっています。しかも、「明らかに広い」の意味が、交差道路よりも2倍以上広ければ該当し、1.5倍以下なら該当しませんが、1.5倍と2倍の間では裁判例が分かれてしまっているのが現状です。次のページをお願いします。

この写真の場所は物凄く多い通行量のため、これらの写真を撮るのに苦労しました。デジタル庁の近くにある大妻通りの3倍程度あります。左右の写真は別の場所です。左側の写真では、進行車線と左方交差道路(T字路)との路幅の割合が、私が計測すると24対18、つまり1.33倍でした。ですから「明らかに広い」とは言えません。よって徐行義務がありますが、誰も徐行していませんでした。徐行しようという動機づけも起きないと思います。右側の写真における交差道路(T字路)では、24対15、つまり1.6倍で、まさに裁判例が分かれてしまう場所です。徐行義務の有無が分からない、という話になります。こうなると、自動運転を実装化するためにはどうすればよいかと言えば、私は、方法は一つしかないと思います。こういった優先関係の有無や広狭が分かりづらいところでは、一律にどちらか一方の道路を優先道路にしてしまうことです。優先道路の表示の仕方は二通りあります。三角の道路標識を立てて優先道路とするか、あるいは路面に優先道路と書く方法です。しかし、これらは日本にはほとんどありません。写真を見ていただくと、中央のセンターラインが交差点内を貫いておらず、そもそも中央のセンターラインがありません。車両通行帯の線もありません。これがまさに、優先道路ではないという表示です。優先道路だという表示は、センターラインが交差点内を貫いている、あるいは第一車線、第二車線の車両通行帯が交差点内を貫いている場合を言います。ちなみに、外側線を貫いていても優先道路にはあたりません。そうすると、日本全国こういった交通整理が行われていない見通しの悪い交差点では、全てどちらかにセンターラインを交差点内に引くことで、必ず優先道路関係を一律に決めてしまうようにしなければ、自動運転はいくら技術が発展しても、その実装化は無理なのではないか、という結論に私の中でなってきました。

最後に、70条についてです。これも、自動運転化するのはまずクリアが無理ではないかと思う規定です。車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない、とあります。当たり前のことが書いてあるだけですが、なぜこんなことが書いてあるかと言えば、70条以外の個別的な結果回避義務、注意義務で賄いきれなかった場合の最後の伝家の宝刀としてこれを残しているだけなのです。これが適用されると、車を運転する場合にはかなり大変です。典型的なものは、歩行者がいれば1メートル以上離れなければいけませんが、自転車であれば何メートル以上離れなければいけないかは、具体的な規定がありません。そういった時によく使われます。この問題の解決方法は、正直言って私も分かりません。道交法を改正するしかないのではないか、ではどう改正するか、現時点では、今後更に議論を深めていく必要があるという問題提起にとどめたいと思います。以上です。

小塚主査: 髙橋先生、どうもありがとうございました。具体的な状況に基づく問題提起をいただき、非常に議論が進むと思います。それでは議事2-(3)に進みたいと思います。前回、第4回サブワーキンググループにおける主なご意見及びそのご意見を踏まえた想定論点について、事務局からご説明いただきます。須賀参事官、よろしくお願いいたします。

須賀参事官:
(以下「資料8:第5回事務局説明資料」に基づきご説明)
資料8:第5回事務局説明資料に基づき、第4回SWGにおける主なご意見、第4回SWGにおけるご意見を踏まえた想定論点、とりまとめの方向性、今後のスケジュールについてご説明

小塚主査: 一部音声が途切れてしまい申し訳ございませんでした。本日、原田構成員、あいの会松永様、髙橋構成員、事務局の順でお話を伺いましたので、これらについて意見交換を行っていきたいと思います。意見交換に先立ちまして、お二方よりご発言をいただきたいと思います。初めに今井構成員よりご発言いただければと思いますが、前回のサブワーキングにて、自動運転車のプログラミングをした時点では、誰のどの車が加害車両になるかなど具体的な事故は予見しようがないと思っておりましたが、前回、今井構成員より、判例の中にはかなり抽象的なレベルでの予見可能性を認めているように見えるものがあるとのお話をいただきましたため、どのように考えるべきなのかということを伺っておりました。こちらにつきまして、今井構成員よりご見解をいただけるとのことですので、よろしくお願いいたします。

今井構成員: ありがとうございます。前回、主査からのご質問に答えられず失礼いたしました。主査がおっしゃったように、前回②の判例で挙げたものが、過失犯の処罰範囲を広げる方向を示す典型的な判例なのですが、その前提として、故意犯の場合でも、裁判所の基本的なスタンスとしては、およそ人を殺害するつもりで行動し誰かが死亡したのならば、死亡した人が自分が殺害するつもりではなかった人であっても故意を認めるという発想が貫かれています。警察官を殺害してピストルを奪おうとした被告人が、警察官に対して発砲したところ、銃弾が警察官の肩を貫通した後に屈折して飛び、20数メートル先の歩行者二名に当たって重傷を負わせたという事件があります。この時、最高裁は二名に対して強盗殺人罪の未遂を認めています。被告人弁護人としては、20数メートル先の、暗かった付近にいた歩行者が見えるはずがないから、その者に対する故意ではなく過失が認められるに過ぎないと主張しましたが、警察官を殺害しようとしてピストルを発射した以上、大変悪い意志を持っており、刑法は特定の人を保護しているのではなく、およそ人を保護しているのだから、被告人が現認していない者との関係でも被告人に故意を認めて良いとの理解を示しております。当時の学説はこの判例を支持していましたが、それは無理筋であるという主張が、私が学生のころから増えていきました。現在、学会レベルではこの判例は間違いであり、打破されるべきものとして「シーラカンス判例」とも言われています。シーラカンス判例と言われるのは、この判例が中世の理解、即ち、およそ悪い意志で行動を開始した以上、その結果については全て責任を取るべきだという、ローマ法以来の理解が示されているからです。過失は故意未満の心理状態ですから、例えば、運転者の隣に座っていた人の怪我を防ぐことができたとのに、そうしようと思い描けなかったというような不注意が認められる場合であれば、自分には見えていなかった後ろの方に座っていた人に対しても、過失を転用する、こうして、実際にけがをした人に対して過失を認定するのが、判例の立場であろうと思いますこの意味で、主査からの指摘は正しいものです。②の判例が出された時は、議論が結構、盛り上がりまして、故意に関する抽象的法定符合説自体、無理筋なのに、その考えに従って過失まで広げるのか、という批判がなされました。しかし、最近は、この点を意識する若い研究者も減っていますが、この抽象的法定符合説的理解は、責任主義に反していると思われます。こうした判例を踏まえ、主査がおっしゃったことを考えますと、それは、髙橋先生や稲谷先生の意見と共通するところがあります。プログラムを作った段階で予想されなかった事故について、どこまで予見可能性ないし結果回避可能性を問うことができるのか、という点ですが、前回の発言を補充させていただくと、私は、法益侵害という結果の発生を防ぐために費用を投入しており、そのことが認識可能であった者との関係では、過失としての予見可能性が否定されると考えています。これは、結果回避可能性から考えて予見可能性を測定するという発想です。この理解によると、設計当時のいろいろな資料を見て、例えばこの道路を通っていれば事故が起きる可能性は低く、起きたとしてもこの程度であるといったようなことを分かって設計されていたのであれば、何年か経ってそれを超える確率が生じるに至っても、直ちに予見可能性を肯定することはできません。しかし、例えばODDを設定した道路内で自動車が運転する中で、徐々に状況が変わり、交通違反が多発するようになるなどの事情があったのであれば、それを知り得たメーカーとしては、プログラム改定の義務が作為義務によって基礎付けられ、新たな状況に至り予見可能性が肯定される場合、即ち、不作為犯としての過失犯が成立する場合もあるかと思います。前回の議論では、私の方から言いそびれておりましたため補足させていただきました。以上です。

小塚主査: ありがとうございました。学説がどう考えているかという点はともかく、一般論として裁判所が採用している今の考え方を、特に過失犯の場合に適用していって、さらに、それが従来のような、実際に車を運転していて目の前で見ているという状況ではなく、前の時点でプログラミングをしている段階での過失に当てはめていくとなると、おそらく裁判所もそれに適合した運用の仕方をされるだろうというお話であったかと思います。他方、そのことと、状況によってアップデートしていくという話は別の問題であるというご指摘をいただいたかと思います。今井先生、ありがとうございました。

もうご一方にご発言いただきたいと思います。先ほどの事務局説明にも出てまいりましたデータ部分に関係して、どのようなデータを取ることができるのかということについて、本田技研工業株式会社の九鬼様より、ゲストスピーカーとしてお話をいただきたいと思います。自動車メーカーということでございますので、波多野構成員よりご紹介いただけますでしょうか。

波多野構成員: ありがとうございます。データの関係に関しましては、サブワーキング事務局と継続的に意見交換をさせていただいております。その一環として、実際に国内においてどのような実施例があるのか話題になっておりましたので、既に市販されている本田技研工業様から情報を提供いただくということで、九鬼様からお話をいただきます。

小塚主査: ありがとうございます。それでは九鬼様、よろしくお願いいたします。

九鬼氏:
(以下「資料7:ホンダレジェンドのデータ記録の概要」に基づきご説明)
ありがとうございます。今回、Honda LEGENDのトラフィックジャムパイロットに搭載されていますデータ記録に関してのご説明をさせていただければと思います。本田技研工業の電子プラットフォーム開発部電子制御ユニット開発課の九鬼廣行と申します。よろしくお願いいたします。簡単な自己紹介となりますが、2021年に発売しましたHonda LEGENDのADAS領域開発責任者を務めておりました。次のページお願いします。

こちらが自動運行装置の概要となっております。まず、車両周辺の外界認識です。赤丸のカメラが前方に2台、青丸のレーダーが前方・側方・後方に計5台、緑丸のライダーが前方・側方・後側方に計5台装備されております。また、自車位置認識として、高精度地図やGNSSと呼ばれる全球測位衛星システムが装備されております。ドライバー状態検知としてドライバーモニタリングカメラがありますが、これはドライバーが前を向いているかどうか、もしくはドライバーが目を閉じていないかなどの検知をしております。機能冗長化については後ほど説明します。自動運行装置に必要な対応・装備として、サイバーセキュリティ、ソフトウェアアップデートや、後ほど説明します作動状態記録装置、また、この車は自動運行装置が装備されていることを示す外向け表示のステッカーが貼ってあります。次のページお願いします。

こちらのページは、先ほど申し上げたシステムの冗長設計の部分になります。自動運転の装置の機能を大きく分けると五つになっております。まず、一番上にありますのが、車線認識及び物体認識の装置として、ライダーとカメラ及びレーダーとカメラという二つのセットで冗長設計をしております。また、制御指示装置としましては、通常時はメインECUが稼働しておりまして、仮にメインECUに異常等が発生した場合、サブECUの方で制御を行うように冗長設計をしています。減速機能については、ESBとVSAの冗長設計となっております。操舵機能はステアリングのデバイスであるEPSの一つに見えますが、中身のモーターや電気関連の部品に関しては冗長設計をしております。電源機能に関しましても、DC/DCコンバーターやバッテリーを含めた冗長設計をしておりまして、完全な二重冗長設計をしております。次のページお願いします。

2020年4月に施行されました保安基準への適合内容となっております。資料左側は、一般車両の認可に必要な型式認定になりますが、こちらについては、自動運転車両の追加項目として、いくつか追加されております。今回は、作動状態記録装置について説明させていただきます。また、資料右側に自動運行装置付き車両に求められる項目として、走行環境条件とサイバーセキュリティと記載がありますが、走行環境条件の内容に関しても、この後ご説明させていただきます。次のページお願いします。

弊社のトラフィックジャムパイロットと呼ばれる、高速道路本線上で渋滞時の自動運転を提供するという内容の機能に関しての主な走行環境条件がこのページに記載されております。道路状況としては、高速道路や首都高等の都市高速、または自動車専用道路で提供しております。ただし、自車線と対向車線が中央分離帯等により構造上分離されていない区間や急カーブのような条件では提供しておりません。また、環境条件としても、強い雨や降雪等によって車線が見えない場合や、通常のドライバーであっても見えないような視界が著しく悪い状況においては提供しておりません。また、交通状況としては、渋滞時、もしくは渋滞時に近い状況でのみ提供しております。また、走行状況に関しましては、渋滞時ということで、時速30キロ未満で作動開始しまして、時速50キロ以上になると作動が終了いたします。また、高精度地図情報があること及びドライバーがシートベルトを着用していること、アクセル・ブレーキ・ハンドル等は操作していないというような走行環境条件下での提供となっております。

次のページは、作動状態記録装置の概要となっております。真ん中の方にある制御ユニット①・②の中に、履歴データと時系列データが保存されております。そちらのユニットに向かって、右側のSRSエアバッグの方から記録タイミングの情報が回っておりまして、それぞれに他の制御ユニットから車両情報やセンサー情報を入力してそれを保存しております。片方が故障した場合や衝突によって壊れてしまった場合、もう片方の方で保存するよう冗長設計しております。

次のページが具体的な保存内容になっております。全て読み上げることはしませんが、自動運行装置が作動中の状況として、作動開始や非作動の状態、運転者への操作要求等の状況を保存しております。また、右上に記載されているような、上記の情報が保存された際の要因や時間、時刻、位置情報等も保存しております。ソフトウェアバージョンに関しては保存しておりませんが、更新履歴から特定可能となっております。下の方に記載がありますが、DSSAD以外の情報として、加速度、減速度、操舵角等の車両の挙動を保存しておりまして、また、自動運転作動中の車両外の動画も保存しております。ただし、こちらはDSSAD外ですので、保持の保証はされておりません。次のページお願いします。

こちらは一例として動画を挙げさせていただきました。動画にあるように、車の周りにあるマルチビューカメラの情報に関しては、前方・後方・側方の動画を保存しております。弊社の場合、事故が発生しておりませんので通常の走行状況での動画になりますが、こちらが動画の実例となっております。個人情報もありますので、周辺の車のナンバーが見えない程度の解像度での記録となっております。次のページお願いします。

こちらのページに記載の情報については、ご契約時にお客様へ説明しております。車両の操作や制御、車両に搭載された作動履歴等に関するデータを記録する機能が装備されているということと、下から3行目にあるように、高速道路本線走行中の車両周辺のカメラ画像や車両の位置情報等に関しては記録をしておりますということで、お客様からの承諾をいただいた上で活用しております。私からは以上です。ありがとうございました。

小塚主査: ありがとうございました。それでは、残り40分程ありますので皆様からの意見交換をしたいと思います。どなたからでも発言いただければと思います。会場にいらっしゃる方は挙手を、オンラインの方はTeams上の機能から挙手をいただけたらと思います。稲谷構成員、髙橋構成員が挙手されましたのでその順でお願いいたします。それでは、稲谷構成員お願いいたします。

稲谷構成員: ありがとうございます。それでは、事前に提出いたしました資料を用いて、事務局にまとめていただいた資料にコメントさせていただければと思います。まずは、これまでの錯綜した専門的な議論を大変上手にまとめていただき、かつ議論の着実な前進が見られる報告書案に仕上げていただき深く感謝を申し上げます。私の資料では、そういった素晴らしい前進が見られるこれまでの議論を更に補完する観点から、自動運転車を製造する企業、特に海外企業において組織的な性能やデータの隠蔽行為等が行われないようにするための実効的な企業制裁制度の必要性やその在り方について述べたものとなっております。

最初のスライドでは、ここまでの責任法に関する議論を簡単に総括しております。ここまでの議論の要諦は、事故又は事故未遂情報に基づいてアップデートされる、型式認証等における安全性の基準と紐づく形で「欠陥」・「障害」・「過失」といった責任発生事由を理解することにより、自動運転車の製造者に事故発生確率を一定確率以下に抑えた自動運転車の製造を行うインセンティブを与えるものだと理解しております。

次のスライドでは、そのような制度を採用した場合にどうしても問題になる立証責任と情報の非対称性の問題、つまり、責任発生事由を立証して責任追及しようとする側と自動運転車製造者の間には構造的な情報格差がございますので、自動運転車製造者側の情報に責任追及者側がアクセスするための方法がないと、責任制度がうまく機能しないおそれが生じるという問題を示しております。
4頁目のスライドにお示ししますように、この問題は、企業不祥事の文脈等では、責任法の「逆効果」問題として知られているものでございます。情報を持っている企業の視点から見ますと、不利な情報が責任追及者側に渡ってしまいますと、直接的な損害賠償責任等の法的責任はもちろん、評判の毀損や行政処分のような副次的な損害が発生するおそれがあるため、情報提供したり、開示したりすることにインセンティブが生じません。そのため、法的責任や社会的非難が重くなってきますと、かえって企業が責任を逃れようとして情報を隠蔽するといった行動をとるということが指摘されておりまして、その結果、責任制度が機能しなくなってしまうというような逆効果をもたらす危険性がかつてから指摘されております。実際アメリカでは、強力な調査権限を持つ大陪審や非常に重たい企業制裁制度が存在したにもかかわらず、「逆効果」問題の解消にとって大きな役割を果たしたとされる訴追延期合意制度が導入されるまでは、企業制裁制度は効果的には機能していなかったと言われております。

5頁目のスライドにお示ししますように、今回のサブワーキンググループの議論におきましても、この「逆効果」問題は懸念されるわけでございます。例えば前回、この問題の解消案の一つとして、自賠責法の求償場面で保険会社と自動車製造者との関係の構築についての言及があったかと理解しております。しかし、両者のインセンティブは基本的に食い違っております。証拠収集等の求償費用が高額になりますと保険会社としては求償しない方が合理的になってしまう場面もありえますので、任意の協力という方法で「逆効果」問題が解消できるのかという点については不明な点が残ると言わざるを得ません。さらに、こうした問題は特に、そもそも協力関係を築くことが難しい海外のテック企業の場合にはより深刻になってくる可能性があるのではと考えております。一方、刑事責任を追及する捜査機関は強制捜査権限を持っておりますので、一定程度この「逆効果」問題の解消を期待できるわけです。しかし、巨大な企業が組織的にデータの改ざんや証拠の隠蔽・隠滅行為を行った場合には、解決に相当の困難が予想されると言えます。この問題も、域外適用が問題となる海外企業が引き起こした場合には一層深刻な問題となると言わざるを得ないと思います。今回の取りまとめにあります、独立事故調査委員会を設置してその権限を強化していく方向性は、「逆効果」問題の解消にとって非常に重要なステップでございまして、実現すれば間違いなく大きな前進になります。しかし、今述べたような海外企業の組織的な隠蔽行為が生じるリスクも念頭に置いて、「逆効果」問題にうまく対処できる形で法制度を合わせて整備することで、より大きな効果を得ることができるのではないかと思われます。現在、皆さんご承知のとおり、公取委等におきまして、日本版のDMA等の整備が進むなど、利益至上主義に走りがちな海外テック企業に対して我が国の法制度を効果的に域外適用するための模索が続いているわけでございますが、このような状況に鑑みても、「逆効果」問題の対処は少なくとも中長期的には非常に重要な問題ではないかと考えております。

6頁目からのスライドは3枚に渡って「逆効果」問題の基本的な対処法をまとめております。これらは「逆効果」問題の解決の実績があるとされる訴追延期合意制度に対する、法と経済学的な観点からの分析に基づくものでございます。第一のスライドは、正直に振る舞った方が企業にとって経済的に大きな利益になることを保証するために、企業の振る舞いの悪質さに応じて段階的に重くする課徴金制度の導入や、公益通報者報奨制度についてまとめております。

7頁目のスライドでは、企業側の懸念事項となる「評判の毀損」による損害の拡大や、消費者・市民の疑問や不安の解消等のために構造改革計画の実施や、それを監督する独立監督人の選任等、公的機関の関与する企業の「更生」の在り方についてまとめております。

8頁目のスライドでは、域外適用を効果的に行うために、「市場」を人質にとる必要があること、また、国際的に見ても説得力のある制度が拡散すると国際協力や市場の「統一」が進み、域外適用の効果が上がってくるということが経験的に観察されていますので、それらの点についてまとめております。
ここまでお示ししてきた解決策は、特にグローバルに活動する企業の組織的な違法行為に、国内法の域外適用によって効果的に対処するという観点から、訴追延期合意制度の経験に学んでまとめたものでございました。今回のサブワーキンググループの議論を補完し、特に、より効果的な事故調査制度を確立し、責任制度をより効果的に機能させるとともに、失敗から確実に学び、より安全な自動運転車を流通させる努力を続けていくといった観点から非常に有用ではないかと考え、まとめさせていただきました。

最後のスライドは、以上の解決策を具現化するような法制度について、試みに論じたものとなります。以上、いろいろと申し上げましたが、本サブワーキンググループの更なる前進に少しでも貢献できれば幸いでございます。ありがとうございました。

小塚主査: 稲谷構成員、ありがとうございました。それでは、会場から髙橋構成員が挙手されておりますので、髙橋構成員お願いいたします。

髙橋構成員: 今まで刑事の事について話していましたが、民事について一、二点ほど質問させていただきたいと思います。原田先生のスライド3枚目に、現行の道交法は、交通ルールの多くについて「車両」を主語とし、「運転者」と「使用者」の義務を設定と記載されていますが、自動運転にする場合には「使用者」に書き換えるという意味なのでしょうか。

原田構成員: 完全な自動運転の場合、従来の運転者の義務を誰かの義務に再編する必要があります。その名宛人となりそうなのが、使用者か製造者で、いずれかに割り振る、あるいは片方に割り振るという趣旨です。

髙橋構成員: 使用者というのは、車の保有者や所有者ということになるのでしょうか。

原田構成員: そのようになります。

髙橋構成員: そうなりますと、自動運転は勝手に車を運転しているため、納得感がないような気がしますが、いかがでしょうか。

原田構成員: おっしゃるとおりです。理論的には二つあり得るということを示した次第です。

髙橋構成員: 承知いたしました。
続いて稲谷先生のご発表について伺いたいのですが、問題の所在の部分で、「欠陥」・「障害」・「過失」の存在について、被害者または保険会社、あるいは検察官が立証できなければ、自動運転車の製造者には安全な自動運転車を製造するインセンティブが生じないと記載がありますが、インセンティブという観点からはおっしゃるとおりだと思います。実際に、現行法上は検察官が立証責任を負っているということはどんな場合においてもそうですから、この点については問題ないと思っております。問題は、被害者または保険会社の部分です。保険会社が求償するという意味では、被害者が保険会社に請求し、保険会社が支払って、保険会社が求償することになっていますが、現行法上では、保険会社が求償するときには保険会社に立証責任があると理解しています。問題は、被害者が立証できなければとしてしまうと、被害者としてはお金が入ってこなくなり、何の救済も無くなるため問題ではないかと思います。被害者は立証責任を転換し、保険会社と検察官については、従前同様立証責任を負うとした方が良いと思いますが、いかがでしょうか。

稲谷構成員: ありがとうございます。そもそも保険会社と検察官も極めて難しい状況におかれる可能性があるというのが私の報告の趣旨です。特に、組織的な隠蔽行為等が行われると相当難しくなるということは先ほど申し上げた次第です。これは、被害者の場合に立証責任を転換したとしても、会社の側から転換したことに対して反証をするわけですが、その反証で出てくる資料が都合の良い資料しか出てこないという問題をどのように解決するのかという問題とつながってくると思います。そのため、立証責任を転換するというのは極めて重要な意味を持ちうる方策ではございますが、それに加えて、そこで情報や証拠の隠蔽をさせないようにする、特に海外のテック企業は相当手ごわい戦い方をしてくるということは経験的に観察されていますので、その点をどのように考えるのかということで申し上げている次第でございます。

小塚主査: 私の資料の理解は、「立証できなければ」と書かれているのは、「立証することができなければ」メーカーにはインセンティブとならないということです。髙橋先生がおっしゃっていることと実際は同じで、それを解消する方法として髙橋先生は立証責任の転換とおっしゃいましたが、それを含めていろいろなことを考えなければならないというのが本日の稲谷先生のご趣旨であろうかと思います。

髙橋構成員: 一つ私の例を紹介させていただきたいのですが、私は20年前ほど前に医療過誤訴訟をやっていたのですが、当時はカルテを出さなかったです。それに対して罰則を設けるなどいろいろなことがなされた結果、今ではカルテを出さない医療機関はありません。さらに、電子カルテですから偽装ができません。そのようなシステムを自動運転にも作っていけば情報を出さざるを得ず、偽装も難しいのではと思います。

小塚主査: ありがとうございます。これをどこで受け止めるのかは事務局に考えていただくとして、その他、プレゼンテーションのどの点に関してでも結構ですので、ご意見がある方はいらっしゃいますでしょうか。それでは、波多野構成員、落合構成員の順でお願いします。

波多野構成員: ありがとうございます。今議論のあった立証責任について少し確認をさせていただきたいです。既に自動運転に関しましては、本日、本田技研工業様からも情報提供がありましたが、20年の道路交通法の改正、もしくは道路運送車両法の改正によって、従来の制御装置には求められていなかった、自動運転装置の作動状態記録が追加で要件化されております。そう考えますと、そういったデータを捜査機関が求めることにより、従来に対して、既に立証のための前提条件が前進していると産業界からは受け止められます。そう考えますと、本日議論になっている、立証責任の本質的な論点は、自動運転を対象とする議論ではなく、自動運転、もしくは自動車だけではないかもしれませんが、いわゆる製造物に対する瑕疵の立証責任という論点であると理解できると思います。そう考えますと、自動運転に限らずそのような議論をすべきということもありますし、従来製品に対して前進している自動運転だけが議論の対象になるのは少し違和感があるため、むしろ包括的な観点での議論に努めていただければと思う次第です。

二点目として、事務局から新たに提示いただいた、フローを加えた方向につきまして、これは今まで議論させていただいた流れの全体を俯瞰で捉え、流れとしても非常に整理されていて、ご尽力いただいたことが感じられましたので、感謝申し上げます。その上で、一点だけお願いですが、フロー図の「事故・インシデント発生」という列では、個別のミクロな事故調査と、おそらくデータの利活用という文脈でニアミス等の収集等が記載されておりますが、これが次のページになりますと、(2)のところが、原因分析とデータ利活用が合わさった形で整理をいただいています。これは、フロー図の前後で考えますと、⑤・⑥は事故調査を主体とした括り、⑦・⑧・⑨はデータ利活用を主体とした活動という括りに整理いただけるとより分かりやすくなるのではないかと思いますので、ご一考いただければと思います。その上で、⑨ですが、インフラの有用性は大事な作業であると理解している一方で、その有効性が確認されただけでは、利活用に踏み込むのはまだまだ難しいと思いますので、有効性が確認できましたら、インフラ認証や管理、運用に係る体制等の整備や制度整備を、可能であれば視野に入れてご検討いただくと、益々のITSの利用につながるのではないかという点を申し上げます。私からは以上です。

小塚主査: ありがとうございました。どの点も重要ですが、資料の読み方について、⑤・⑥は個別事故調査の話、⑦から⑨は事故・ニアミス情報の共同利用の話であるという理解は正しいでしょうか。

事務局: 四角を分けておりますので、(2)という形でまとめてしまっておりますが、上の二つと下の三つは全く別の性質のものです。上はもともとミクロと呼んでいるもので、下はマクロと呼んでいるものですので、中見出しを付けるなり、箱を分けるなり工夫したいと思います。また、インフラの話も承りました。担当省庁と何ができるかを、実証等を通じてということになるかもしれませんが、検討してまいりたいと思います。

小塚主査: ありがとうございました。落合先生、今井先生から手が挙がっていますので、ご意見を伺いたいと思います。それでは落合先生、よろしくお願いいたします。

落合構成員: ありがとうございます。数点述べさせていただきたいと思います。

一点目は、先ほど稲谷先生と髙橋先生がご議論されていた、情報開示につながるようにしていくという点について、これは施策例で言うと、⑤の調査協力の義務付けが入っているのが、基本的な対応になるのだろうと思います。医療機関においても、カルテの開示に向けて行政的取締りということでやられていたことと同じようになってくる部分もあるかと思いますので、それをここで対策を求めている部分もあるのだろうと思います。情報を提供してもらうことは適正な事件解決に当たって非常に重要だと思いますので、ここはしっかり整備することが重要だと思います。さらに、稲谷先生がおっしゃっていた制裁制度等は、この場で正面から議論すべきではないかと思いますが、ライドシェアの関係でも白タクの取締り等の話になっているものがございます。外国法人に対して、例えば日本国内において法人登記をしていなかったり、代表者選任をしていなかったりということは、旅行業法や電気通信事業法でも問題になっていたことがあります。どちらかというと、海外事業者が直接入ってきて提供される可能性が出てくるかと思いますので、このような点をより考慮する必要があります。また、ビッグテック企業における行動原理でいうと、制裁が弱いと無視しても良いと思われる場合があると思っております。電気通信事業法の関係でも、例えば登記の懈怠の過料を踏み倒した事業者がいるように承知はしておりますので、例えば数十万や数百万にしてしまうと実効性がないことになってしまうと思います。日本国内の今のメーカーの方々であれば、⑤が整備されれば十分という気はしますが、それ以外を踏まえますと、稲谷先生の議論が出てくるのかなと思っております。

二点目としては、本日途中から参加したため資料を拝見してのことになりますが、原田先生の資料4ページ目で自動運転の課題ということをご指摘いただいている中で、保安基準のアップデートと即時適用という話や、保安基準のアップデートに係る行政上の責任ということでご指摘がされていると思います。このアップデートという部分につきましては、例えば施策例でいうと、⑩の保安基準の適合を求める仕組みに関する検討で整理されている部分もあるかなと思います。一方で、一点重要だと考えていますのが、特にこのご指摘の中の行政上の責任と書かれている箇所の裏側にある事柄かと思いますが、社会環境や技術が変わったときに、適正に認証基準またはガイドラインがアップデートされていることが重要だと考えています。そのための仕組みは、基本的には事故責任に関する事故調査制度やマクロの情報収集制度、また、保安基準等の整理があるので、コンポーネントとしては必要な機能はある程度確保されているような気がします。しかし、図の中に書き込むかどうかは別として、例えば経産省で議論しているアジャイルガバナンスという観点で言いますと、情報が集まったら、それを、保安基準とガイドラインのアップデートのような、大きいループで変えていくことができると良いと思います。最終的には裁判所に行き、保安基準とガイドラインが適切な基準であったかという争い方がされることがあると思いますが、適時に情報収集し、必要がある場合には見直しをする体制を取っているということ自体は、内容の適正性を確保することもさることながら、最終的な法的安定性を保つためにも役立つのではないかと思いますので、是非ご検討いただけたらと思います。

三点目としましては、波多野構成員が先ほど仰っていた、全般も関わる部分もあるのではないかという点です。確かに全般に関わる部分もあろうと思います。一方で、若干異なる部分としては、海外法人や、ソフトウェアの部分により重きを置いている部分についてどう評価するかという部分もあるかと思います。一方で、デジタル庁で議論しているデジタル関係制度改革検討会等でもよく論点になりますが、実際に物だけがある場合とデジタルを組み合わせる場合でイコールフッティングは重要という議論は出ます。先ほど異なる要素もあるのではと申し上げましたが、同じような要素のところは反映できる限り既存のものに反映していくことも合理的なご意見だと思っております。

四点目として、インフラの有用性についてのご指摘がありましたが、どのようにメンテナンスするかという点や、どのようにして責任関係の前提となるような各当事者の役割が定められるのかという点は、実際に開発をしていただくにあたって極めて重要な外的制約になると思いますので、この点については⑨で、どこをインフラにゆだねるのかという点も含めてしっかりとまとめていただけると良いと思います。私からは以上です。

小塚主査: ありがとうございました。いろいろな論点が出ていましたが、今井先生にご発言いただきます。よろしくお願いいたします。

今井構成員: お願いいたします。本日の原田先生と髙橋先生のご報告は、これからの取りまとめに対して大きな意義があると思っております。それについて、私には分からない点がありましたので、お二人に簡単な質問をしたいと思います。
まず、原田先生のご報告の中で、運転者という言葉が使われていて、自動運転がより進むと運転者がいなくなると仰るのですが、運転者の概念をどう捉えていらっしゃるのかという点です。おそらく、行政法的な観点で、行政法上の責任を負うべき主体と、刑事法上の責任を負うべき主体が異なるわけでありますので、運転者の概念もそれによって異なってくる場合があります。前提として道交法には定義がありませんので、先生がどのようにお考えの上でこのように書かれたのか、教えていただきたいです。

関連して、髙橋先生のご説明で、基本的に私も同じように考えているのですが、結果回避義務を具体的に書いてあるのが道交法であるという点については、もう少しコメントが必要かと思いました。道交法は一般的、抽象的に道路交通の安全を保護するための規定でありまして、本日あいの会の方がおっしゃたように、皆さんの一番の関心事は、生命や人の生理機能が侵害された場合どうするのかということでありまして、これを道交法に委ねてしまうのは場違いかもしれません。ですから、業務上過失致死傷罪の前回私が報告したような点を踏まえて、過失、ないし過失を基礎づける義務を考えるべきであって、その際、道路交通法違反は重要な事実になりますが、間接証拠に留まるだろうと思っております。そのような考えで、髙橋先生のご意見と齟齬がないか確認したいということです。

小塚主査: 具体的なご指摘をいただきましたので、それぞれお答えいただきたいと思います。まずは原田先生、運転者の概念についてお願いいたします。

原田構成員: ご質問ありがとうございます。おっしゃるとおり、行政法上の運転者の概念と刑事法上の運転者の概念は異なると思います。ここではあくまでも行政法上の概念として想定しています。つまり道路交通法が様々な行為義務を設定していることとの関係で、その行為義務を果たすことができるような活動をしている、つまり実際にハンドル操作をしている人という意味で、ここでは運転者という言葉を使っております。以上です。

小塚主査: ありがとうございました。それから、刑事法上の過失と道交法の関係について、髙橋先生、お願いいたします。

髙橋構成員: 議論を簡単にするために道交法と言っただけで、本来の書き方は、道交法その他関係法令と言った方が正確かと思います。例えば、先ほど申し上げた、徐行義務がある左折するT字路があったかと思いますが、そこでは徐行しなければならないと道交法では書いてあるのですが、最近検察庁は、場合によっては徐行だけではなく、例えばタンクローリー等の大きいトラックの場合は一時停止義務があるということも言い出しています。これは道交法には記載されていないです。これは、条理上の義務のような形で言われていますが、もし、自動運転化において詳しく書くのであれば、そのようなことや関係法令も含めて書いていかなければいけないと思います。以上です。

今井構成員: ありがとうございました。髙橋先生のご趣旨、とてもよくわかりました。そこはやはり大事なところですが、いくら改正が早い道路交通法であっても、そこに書ききれない部分はあるでしょうから、先ほど落合先生がおっしゃったことと似ていますが、ODDを設定する際に十全の準備をすることによって、少なくとも自動運転との関係ではそのような問題を回避できるかもしれないと思って伺いました。また、逆方向ですが、髙橋先生のご意見を仮に他の人が誤解してしまった場合、法令に従っていれば過失がないのではないかというようなことになりかねません。最近もありましたが、ISOに従っていれば自動運転の過失がないという、完全に誤解した主張もなされていますので、それを私たちがここでメッセージとして出すことはできないだろうということは申し上げておきます。ありがとうございました。

小塚主査: ありがとうございました。稲谷先生も挙手されていますので、稲谷先生、お願いいたします。

稲谷構成員: ありがとうございます。波多野様からいただいた疑問点につきまして、少し私の考えを述べさせていただきます。落合先生からも既にいくつかご指摘がありましたが、大きく分けて三点ほど考えなければならない点が自動運転に関しては存在していると思います。

まず、やはりデータ偽装などのチート行為が、ソフトウェアを使った場合には極めて巧妙になり見つけにくくなるという問題があるということがそもそも指摘できるかと思います。フォルクスワーゲンの事例はかなり巧妙なやり方をしていたわけでございまして、あのようなものがより高度なソフトウェアであるAIを用いるこの文脈でなされますと、大変なことになるということは想像に難くないということが一つあります。

また、落合先生もおっしゃっていましたが、テック企業の行動原理は、従来企業に比べてかなりアグレッシブだということを念頭において我々も考えないといけないと思います。相当な性悪説に立って考えなければならない部分がどうしても出てくるということは否定できないというのが二つ目です。
三つ目ですが、最終的に自動運転車はひとつのデジタルプラットフォームになってくる可能性があります。そうするとネットワーク効果が生じますので、相当な広範囲に大きな影響を及ぼしてしまうという点が、AIを含むソフトウェアを使わない単体のスタンドアローンの自動車に比べて懸念しなければならない点として指摘できるのではないかと思います。
以上の点に対応し、真面目に法律を守る日本の企業を守るという観点からも、消費者・市民の信頼・安全性を守るという観点からも、きちんと対応できるものを考えていかないと大変まずいことになるのではないかと思い、本日色々と申し上げた次第です。ありがとうございました。

小塚主査: ありがとうございました。他にご発言をご希望の方はいらっしゃいますでしょうか。会場からは髙橋先生が挙手されています。それでは、髙橋先生お願いいたします。

髙橋構成員: 事務局資料の表について、非常に言いにくいのですが、民事上の責任に国家賠償法2条を明記すべきではないでしょうか。保安基準のアップデートが遅れるとやはり国賠の責任が出てくる。先ほど原田先生からも国賠の話がありましたが、筑豊じん肺訴訟でも同様の問題がありました。あれは、鉄鋼の分野では水を流すなど被害が生じないように基準が設けられたのですが、石炭だけが放置されていました。それが数年間放置されていたため、国賠が認められました。保安基準のアップデートは、自動運転では日々事故が起きることですから、短いスパンで国家賠償法2条の責任が問われる場面も起きてくると思います。そのあたりの余地も入れていただきたいと思っております。

小塚主査: ありがとうございました。今のご指摘は、インフラと国賠法について改めて検討するというより、⑩の、保安基準・ガイドラインのアップデートというところで、これが遅れたら国家の責任が生じる可能性があるということを意識していただくといいかなと思います。落合先生がおっしゃったアジャイルガバナンスとの可能性もございますので、アクションアイテムが増えるというよりは、考え方を工夫して書いていただくと良いのかなと思います。文章で報告書を書いていただいているということですので、その中には確実に書いていただければと思います。その他ご発言希望の方いらっしゃいますでしょうか。それでは、髙橋先生よろしくお願いいたします。

髙橋構成員: 文書化されるとのことですが、それはいつ頃になるのでしょうか。

小塚主査: 次回のサブワーキンググループで報告書を我々として採択するということでよろしいでしょうか。

事務局: 一か月の中に、我々の執筆作業、各省協議、先生方とのご相談をはめ込んでいきますので、毎度大変急で申し訳ございませんが、いきなり次回の会合で初見とはならないように努力したいと思います。

小塚主査: 次回の会合でご意見をいただいてということになるかと思います。
それでは、時間もありますので、主査としてまとめの発言をする前に、主査の立場を一旦降りまして、本日は民事の関係の先生がご不在で私しかいないということもありますので、若干そのことを申し上げたいと思います。先ほど立証責任の話が出ました。民事の立証責任で考えた時に、事故被害者からの請求、これは不法行為ということになります。もちろん、その特別法として自賠法、製造物責任法というものがありますが、これらも不法行為です。保険会社が求償する場合にも、結局はその代位ということになります。そうしますと、事故が発生し、損害が発生した際、メーカーや関係者の方々に対して誰が悪かったか全て証明してくださいというのは、さすがに裁判制度としては成り立たないと思います。法的な意味での立証責任というのは、おそらく原告側にあるというのは変わらず、その過程での論点の形成や証拠の提出と言われる、立証責任の周りにある問題の中で、責任追及が行いにくいということにならないように、しっかりした制度整備をしていく必要があるのだと思います。先ほどから議論になっているのは、広い意味での立証活動に関する責任の在り方であろうと私は理解しました。それを延長すると、根本的に、現在の自賠法の運行供用者責任自体をどう考えるかという話もあるわけですが、それは今回のアクションアイテムの中でも中長期的にもう一度考える必要があるということで、とりあえずは現在の制度で進めていくというのは、平成30年に国土交通省でまとめた報告書がありますので、差し当たりはそれで対処できるだろうという理解であると思います。

ここからは主査の立場で本日の会議をラップアップしたいと思います。まず、本日もいろいろなご示唆をご提供いただきましてありがとうございました。原田先生からはいくつもの点をいただきましたが、まずは、現在の道路交通に関する規制が、刑事責任に依存している部分があるのだというご指摘をいただき、なぜこの会議で今まで刑事責任の在り方が大きな論点になってきたかの背景が明らかになったかと思います。第二に、保安基準の問題で、特にアップデート・即時適用ということの重要性をご指摘いただきました。これは、建築基準法等は既存不適格がむしろ原則になっていますが、自動車事故のことを考えますと、それを原則にするのはおそらく難しいのではないかという点は、アップデートの中でも大小様々あるかと思いますが、今後の具体的な保安基準の検討の中で仕分けがされていくのではないかと理解しました。

あいの会様からも貴重なご指摘をいただきまして、基本的には自動運転が進んでいくことが交通の安全、ひいては社会の中に不幸な人、悲しむ人をなるべく出さないということで、希望を持っているという風におっしゃっていただいたことは非常に重要だと思います。事務局報告の中にも、事故に対する自動車帰責の大きさ、逆に言いますと、自動運転に対する期待が述べられておりまして、この点は非常に重要だと思いますし、私の立場から申し上げていいかはわかりませんが、メーカーの方々には、そのような期待に応えるような開発をしていただきたいと思っております。

その上で、必要な制度についてというお話もいただきまして、それを補足する形で、髙橋先生から道路交通に関するルールの落とし込みについてご発言いただきました。この辺りは、ここ数回の議論の中で非常に明確になってきたことだと思いますので、今後これをいかに実行していくかということが重要であると思います。

本日新たにご指摘頂いた点についても申し上げておきたいと思います。まず、本日いくつもの場面で、海外事業者に対する適用の話がありました。これは、現在の市場の状況を考える時に大きな問題であると思いますので、報告書の中でも出来る限り受け止めていただきたいと思います。本日は執行の問題等についてもありましたが、もう一つ、ルールのプログラミングへの落とし込みという関係でも、何か対応できないかと思っております。つまり、日本の道路交通法をどのようにプログラムに落としていくのかということは、日本メーカーと日本政府との間では、しようと思えば緊密な対話ができますので是非お願いしたいと思いますが、これと同じことを海外のメーカーにもしていかないと、海外のメーカーが日本メーカーのようなコストをかけずに日本の道交法を取り込まないままの製品を作り、その状態で保安基準自体を満たしていると主張するようなことにならないように、産業のイコールフッティングという面でも、日本国民の安全という面でも、そのあたりは考えていく必要があるだろうと思います。その関係で、落合先生や稲谷先生からは制裁の在り方についてご指摘をいただきました。大きな問題もありますので、課題としては中長期になるかもしれませんが、これも受け止めていただきたいと思います。

もう一つが、アップデートの頻度等が刑事責任、あるいは行政の責任で、最終的には国賠に関わってくるというご指摘もありましたので、この点については報告書の中でしっかりと受け止めていただければと思います。以上が、私が本日の議論から考えたことでございます。
加えて、データの共有につきましても、具体的なお話を本田技研工業の九鬼様からいただきましたので、これも踏まえまして、最後に本サブワーキングの総括をお願いしたいと思います。蓮井審議官、よろしくお願いいたします。

蓮井審議官: デジタル庁の蓮井でございます。本日もお忙しいところ先生方にお集まりいただきましたこと、改めて感謝申し上げます。また、デジタル環境の不具合についてもお詫び申し上げます。本日含め、これまでの5回の議論で、論点の重要性や、髙橋先生からは道交法についてのお話等、非常に具体的な点を含めてご教示賜りましたこと、厚く御礼申し上げます。解像度がどんどん高まってきているのではないかという気がしています。解像度を落とし込んだものとしてフロー図を書かせていただきました。それについて本日様々なご意見をいただきましたので、それらを含め、どこまでまとめられるか、先ほど事務局からもありましたとおり、ゴールデンウィークを挟みますが、まずはトライして、オンオフ切り替えながらしっかりとまとめたものを、また先生方に事前にご相談させていただき、その上で関係府省庁との調整を図っていきたいと思います。引き続きよろしくお願いいたします。既に先生から要約をいただきましたので、私からは改めて御礼とお願いを申し上げ、私からの挨拶とさせていただければと思います。ありがとうございました。

小塚主査: ありがとうございました。本日も様々貴重なご意見をいただきまして、私からも御礼申し上げます。追加のご意見がございましたら来週の金曜日までに事務局までお送りいただければと思います。特に、本日海外にいらっしゃるためご欠席という構成員の方々もいらっしゃると伺っておりますので、是非ご意見をいただいてください。本日の会議資料につきましては、これまでと同様、後日デジタル庁のウェブサイトにて公表させていただきます。いつもより少しお時間をいただいてしまうかもしれないということを事務局より伺っております。また、議事録につきましても、いつものとおり構成員の皆様にご確認いただいた上でデジタル庁のウェブサイトに公表いたします。

次回のサブワーキンググループは5月の下旬を予定しております。議題については現在検討中ということですが、少なくとも、先ほど話題に出ていました報告書案が出てくるということでございます。追って皆様にご連絡差し上げますので、お手数おかけしますがよろしくお願いいたします。

以上を持ちまして本日の第5回AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方検討サブワーキンググループを閉会とさせていただきたいと思います。皆様、お忙しい中ご参加いただきましてありがとうございました。良い週末をお過ごしください。